2018年6月12日火曜日

今週の今昔館(115) 安治川ばし 20180612

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(24)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の24回目は、安治川ばしをご紹介します。現在の中央卸売市場と川口の間に架かっていた橋で、現在はありません。

■安治川ばし(国員画)
 江戸時代初期までの淀川河口部には九条島が流れを遮る位置にあり、洪水がたびたび起こり、また土砂堆積により舟運にも不便をきたすことが多くありました。このため貞享元年(1684)幕府の命により、河村瑞賢が水路を開削し、安治川と名付けられました。

 淀川治水のために堂島川と土佐堀川の合流地点から開削し、大阪湾までつないだ安治川。これにより、諸国の米・物産を積載した千石・二千石の大型廻船が直接市中に入船できるようになり、諸国と大坂を結ぶ川の大動脈として江戸時代大坂の経済発展を支えました。「天下の貨七分は浪華にあり 浪華の貨七分は船中にあり」(広瀬旭荘)といわれるほどに船は諸国取引の重要な輸送機関であり、安治川は大坂経済に大きな恩恵をもたらしました。

 その後、周辺に富島や古川の新地開発が進められ、元禄11年(1698)に橋が完成しました。安治川橋はこの新地の開発に伴い初めて架設されました。浪花百景に描かれている安治川橋は、この時の橋です。明治初年に刊行された「浪花百景の内」にもこの安治川橋が描かれています。

 現在の大阪市中央卸売市場の南側に架かっていた安治川橋の下手の岸には千石を超す諸国の船が横付けされ、ここで荷は小舟に積み替えられて市中に運ばれました。船の通過を容易にするため安治川橋は桁下高く造られました。水害のたびに流され、架け替えられていました。


浪花百景「安治川ばし」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

浪花百景の内「安治川橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代末期、幕府は開国に備え、この地を外国人居留地として、準備を進め、明治新政府によって明治元年(1868)大阪開港とともに外国人に競売されました。居留地には、洋館や舗装道路が造られ大阪の文明開化の拠点となりました。

 明治6年(1873)居留地の交通の便を図るため、新しく安治川橋が架けられました。
 この橋の中央二径間は西欧から輸入された鉄橋で、高いマストの船が航行する時には、橋桁が旋回する可動橋でした。当時の人々はこの旋回する様を見て「磁石橋」と呼び大阪名物の一つとなりました。


 明治18年(1885)大阪を襲った大洪水は多くの大川の橋を流し流木となって安治川橋に押し寄せました。安治川橋はこの流木や洪水に抵抗し、よく耐えましたが、市内に洪水の恐れが生じたため、やむなく工兵隊により爆破撤去されました。その後再建されることもなく、現在では姿を消しています。


安治川橋の碑
浪花安治川 新橋の景(部分)
中央部の橋桁が旋回する可動橋

磁石橋とも呼ばれた「安治川橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
明治18年淀川大洪水の安治川橋(写真左の橋)
安治川橋は上流から流れてきた橋や流木に耐えたが、
市内に洪水の恐れがあるため工兵隊により爆破された。
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の安治川付近を見ると、「野田村」の南に「北安治川」、「新堀」の地名があり、「新堀」と「南安治川」の間に「安治川バシ」が架かっています。橋の下流には、船のマストも描かれています。この地図は、東が上になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。大佛島と安治川上一丁目の間に安治川橋が架かっています。安治川が開削される前の川筋が、古川、掘割としてS字型に残っています。安治川をはさんで南北に九条島田地があり、かつて九条島として地続きだったことが分かります。現在の西区九条と此花区西九条にあたります。安治川沿いは〇印の天満組となっています。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、安治川には橋はなく、かわぐち渡しほか、いくつもの渡船が川の両岸を結んでいます。大きな船が川口付近まで上ってきていた様子も描かれています。市電と水運が当時の主要交通手段であったことがよくわかります。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)


 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、中央卸売市場と大阪市場冷蔵会社が開業している様子が目に付きます。多くの渡船が描かれていますが、中央卸売市場と川口の間の渡船は「無銭渡」と書かれています。西九条の南の源兵衛渡の傍に「川底地下線」の文字があります。川底トンネルの「安治川隧道」が完成するのは昭和19年ですが、このころすでに計画があり、工事が始まっていたのでしょうか?それとも、トンネルではなく川底に通信や配電のための電線が通っていたのでしょうか?いずれにしても、当時の技術と予算では大型船舶の通行の多い安治川には橋を架けることは難しかったことがわかります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)


 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、中之島から大阪港につながる市電が通っています。大佛島には商船会社の文字があり、川には港を示す錨のマークがあります。
 右上の昭和7年では、野田から西九条にかけてと、本田から安治川にかけても市電が通り、野田には中央市場があります。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、本田から西九条にかけて大きな被害があったことがわかります。
 右下の昭和42年を見ると、市電は土佐堀通から港通りにつながる路線と、野田から西九条にかけての路線を除いて他は廃止され、港通とクロスする形で新たに中央大通が完成し東西方向の新たな幹線となっています。地下鉄4号線(中央線)はかつての幹線の港通ではなく新しくできた中央大通を走り、木津川から西では地上に出て、高架線を走っています。安治川開削前のかつての川筋は、埋め立てられていますが、その姿が道路の形状に残っています。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)


 今回は、「浪花百景」の安治川ばしをご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。


〇企画展「2018年度 建築設計展」は終了しました。


〇次回の企画展は、「商都慕情 -今昔館の宝箱-」です。
会期:2018年6月16日(土)~7月8日(日)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:毎週火曜日

 「天下の台所」と称された大阪には諸国の物産が集積し、商人は富み栄え、豊かな暮らしを背景に芸術・文化が開花しました。また、「水の都」とも称された大阪は市中に堀川が発達し、多くの橋がかけられました。三大橋と呼ばれた「天満橋」「天神橋」「難波橋」、町人が維持管理した町橋など多種多様な橋があり、魅力ある都市景観を作り出していました。

 大阪くらしの今昔館が所蔵する美術品の中には、大阪の景観や、年中行事など、人々の暮らしぶりを描いた絵画が残されています。例えば、「浪花下村店繁栄之図」(佐藤保大筆)は幕末期の松屋(現在の大丸)の店構えと賑わいが、「浪花天神橋図」(菅楯彦筆)には天神橋の上で武家の子ども連れと、天神旗を持った行商人の家族などが行き交う様子などが描かれています。さらに花見や月見など季節の行楽、寺社への参拝、年中行事や祭礼など、古きよき大阪の魅力あふれる街の様子や暮らしぶりを掛軸・絵巻・屏風などの絵画作品を通してご覧ください。


浪花下村店繁栄之図 佐藤 保大
浪花天神橋図 菅 楯彦
「葉月 四ツ橋夕涼」浪花風景十二月より 二代貞信


〇今週のイベント・ワークショップ

6月13日(水)~16日(土)、18日(月)、20日(水)~23日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

6月17日(日)、24日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

6月16日(土)
町家衆イベント 折り紙

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00

6月17日(日)
町家衆イベント 今昔語り

大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時

6月23日(土)
イベント 和楽器の調べ

和楽器の響きをお楽しみください
14時~15時
出演:菊聖公一、菊重絃生、ジェシー逅盟

町家衆イベント ワークショップ『つまみ細工を作ろう』
①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費300円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

6月24日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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