2018年6月5日火曜日

今週の今昔館(114) 川口雑魚場つきじ 20180605

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(23)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の23回目は、雑魚場を描いている2枚をご紹介します。

■川口雑魚場つきじ(芳瀧画)
 堂島川と土佐堀川の合流した安治川が、さらに木津川を分流する川口は三角地帯を形成し、諸国から市中に入船してくる船にとってはちょうどのど元に当たります。元和元年(1620)ここに船を監視する船番所(船手奉行所)が設置され、併せて船奉行の役人の住居や幕府の船蔵も置かれた要地でした。
 一方東対岸にあった江之子島には漁船のほか瀬戸内方面への便船も発着しました。江之子島北側の江戸堀に架かっていた崎吉橋付近は安政4年(1857)に茶屋設置が許可されて以来、人々の往来で賑わい、雑魚場築地と俗称されていました。現在江戸堀は埋められ、木津川を挟んだ両岸は昭和7年完成の昭和橋で結ばれています。

浪花百景「川口雑魚場つきじ」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

■雑魚場(芳瀧画)
 豊臣期には生魚・塩干魚を扱う商人が天満に市を開いていましたが、鮮度を考慮し、河口に近く船の利用しやすい鷺島に移ってきました。官許の魚問屋が明和年間(1764~1772)には84軒あったとされ、問屋の裏口が荷揚げ場の百閒堀川に面していました。
 雑魚場魚市場は、江戸時代を通じ大坂市中の鮮魚の独占的な取引権を獲得し、堂島米市場、天満青物市場とともに大坂三大市場の一つとして繁栄を誇り、天下の台所、食い倒れ大坂の源となりました。近海で獲れた魚が毎朝荷揚げされ、揃いの紺の着物の仲買人が威勢よく働き、勇ましい掛け声とともに行われる取引は、商人の町大坂を象徴する風物でした。
 明治以降も雑魚場は発展を続けましたが、昭和6年大阪市中央卸売市場開設にともない消滅しました。かつて荷揚げの便を支えた百閒堀川も戦後の埋め立てによって姿を消し、現在記念碑が建てられています。


浪花百景「雑魚場」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
雑魚場魚市場跡の碑

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の雑魚場付近を見てみると、おおきく「雑魚場魚市場」の文字があり、赤い線で「ウツボ天満町」と「カイヤ町」と結ばれています。それぞれに「〇塩魚店多シ」「〇カイヤ多し」の文字があります。カイヤは櫂屋です。魚市場とこれらを結ぶルートが観光コースになっていたようです。雑魚場から北へは「西北バシ」、南へは「モザエモンバシ」が架かっています。
浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 文化3年発行の「増修改正摂州大阪地図」を見ると、川口には御番所、御舟蔵があり、対岸の江之子島には「巳亥築地」の文字が見えます。江之子島から北へ「崎吉橋」が架かり、「川魚市場」「乙酉ツキヂ」の文字があります。
 雑魚場には、「雑魚場町」「魚市バ」の文字があり、江之子島との間には、「上ノハシ」「下ノハシ」が架かっています。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。雑魚場から江之子島の間に「上ハシ」「下ノハシ」の2つの橋が架かり、「ザコバ丁」「魚市バ」の文字があります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、江之子島との間の百間堀川に「ざこばばし」が架かり、変体仮名で「ざこば」の文字が書かれているあたりが雑魚場です。府庁の傍にある市電「江之子島」停留所からの利便を考えてざこば橋が架けられたのでしょう。江之子島の北の端には北へ「さきよしばし」が架かっています。雑魚場との間には「さぎしまばし」があります。江戸堀には「さきよしばし」と「さいほくばし」の間にもう一つ橋がありますが、名前は書かれていません。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、市電のネットワークが拡がり、土佐堀通にも市電が走っています。川口町からは四方に市電網が走っています。
 江之子島の府庁は大手前に移転し、跡は工業奨励館となっています。地図左上の野田には、中央卸売市場が開業し、大阪市場冷蔵会社の文字もあります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、中之島から大阪港につながる市電が通っています。江之子島には府庁の姿があります。府庁の北から百間堀川を渡った辺りが雑魚場です。
 右上の昭和7年では、木津川橋と江之子島橋が拡幅されて本町通にも市電が通っています。ざこば橋も架け替えられています。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、大きな被害があったことがわかります。昭和橋が架かり市電が土佐堀通にも走っています。
 右下の昭和42年を見ると、市電は土佐堀通から港通りにつながる路線を除いて他は廃止されました。江之子島との間にあった百間堀川が埋め立てられ、新たに「新なにわ筋」ができていますが、中之島にわたる橋はまだありません。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 最新のグーグルマップを見ると、江戸堀、百閒堀、古川などが埋め立てられ、新なにわ筋ができており、昭和戦前とは地形が大きく変わっています。江之子島は島ではなくなっています。川口から土佐堀通につながる橋が「昭和橋」、本町通につながる橋は「木津川橋」です。新なにわ筋の上には阪神高速道路3号神戸線が通っています。

最新のグーグルマップ

 今回は、「浪花百景」の雑魚場を描く2枚をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室床面には「大阪市パノラマ地図」を大きく拡大して展示していますので、水の都の雰囲気を味わってください。
 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。


〇企画展「2018年度 建築設計展」開催中です。
前期:「設計競技入選作品展『地域の素材から立ち現れる建築』」
   平成30年6月2日(土)~4日(月)(終了しました)
後期:「全国大学・高専卒業設計展示会」
   平成30年6月7日(木)~10日(日)
開館時間:午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)

●後期 「全国大学・高専卒業設計展示会」
内 容:全国の大学及び高等専門学校の卒業設計優秀作を展示します。
入場料:無料
主 催:日本建築学会、同近畿支部
    大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)


〇次回の企画展は、「商都慕情 -今昔館の宝箱-」です。
会期:2018年6月16日(土)~7月8日(日)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:毎週火曜日

 「天下の台所」と称された大阪には諸国の物産が集積し、商人は富み栄え、豊かな暮らしを背景に芸術・文化が開花しました。また、「水の都」とも称された大阪は市中に堀川が発達し、多くの橋がかけられました。三大橋と呼ばれた「天満橋」「天神橋」「難波橋」、町人が維持管理した町橋など多種多様な橋があり、魅力ある都市景観を作り出していました。
 大阪くらしの今昔館が所蔵する美術品の中には、大阪の景観や、年中行事など、人々の暮らしぶりを描いた絵画が残されています。例えば、「浪花下村店繁栄之図」(佐藤保大筆)は幕末期の松屋(現在の大丸)の店構えと賑わいが、「浪花天神橋図」(菅楯彦筆)には天神橋の上で武家の子ども連れと、天神旗を持った行商人の家族などが行き交う様子などが描かれています。さらに花見や月見など季節の行楽、寺社への参拝、年中行事や祭礼など、古きよき大阪の魅力あふれる街の様子や暮らしぶりを掛軸・絵巻・屏風などの絵画作品を通してご覧ください。



〇今週のイベント・ワークショップ

6月6日(水)~9日(土)、11日(月)、13日(水)~16日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

6月10日(日)、17日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

6月9日(土)
ワークショップ 『版木はがき』

13時30分~15時
参加費:200円

6月10日(日)
イベント 筑前琵琶

和楽器の奏でる音色をお楽しみください
出演:竹本旭将、福井旭巽
14時~15時

町家衆イベント ワークショップ おじゃみ
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00

6月16日(土)
町家衆イベント 折り紙

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00

6月17日(日)
町家衆イベント 今昔語り

大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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