2019年6月11日火曜日

今週の今昔館(167) 天満菜蔬市 20190611

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(5)

 今回は「浪華の賑ひ」の「天満菜蔬市(あおものいち)」をご紹介します。八軒家浜の対岸、現在の南天満公園に当たります。

■天満菜蔬市
 この市場は日々朝毎に数万の商人集まりて菜蔬を売り買ふことあたかも塩の湧くがごとし。されば初春の若菜より年の暮れのすずしろにをはるまで、四季ともに怠ることなく、わけて秋の松茸・栗市、冬の蜜柑市等は夜の市にして松明(たいまつ)挑灯(ちょうちん)を数多(あまた)照らしていさましく、目覚むる心ちせらる。
 市中の凍にすべるやとしのくれ 今朝庵醒花

浪華の賑ひ「天満菜蔬市」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華の賑ひ」の本文には「菜蔬市場(あおものいちば)」として以下のように記載されています。
 天神橋北詰より東へ浜側通三丁ばかりの間なり。北詰より西を市の側といふ。荒物・乾物の店多し。
 もとこの市場は京橋南詰において年久しく有りしが、慶安の頃その地御用地となりて、京橋片原町に引き移す。しかるに商人の往来に煩いありとて、替地を免され、今の所に移りてより、日々に店々を飾り、売買市人鳥のごとくに集ひ、鱗のごとくに集り、賑はしき事、常にたゆむ事なし。


 浪花百景にも「天満市場」がありますので、見てみましょう。

浪花百景「天満市場(国員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 秀吉の頃、京橋にあった青物市場は夏の陣以降二転三転し、承応2年(1653)から天満橋と天神橋の間のこの地において官許市として営業を開始しました。
 幕府の保護を受けた大坂で唯一の青物市場で、対岸は八軒家浜という大川の一等地に広く問屋が並び、摂河泉の野菜や紀州・山城の果物を四季を通じて集荷しました。秋の松茸・栗、冬の蜜柑などは夜市が立ち、こうこうと輝く松明や提灯の明かりのなかで取引が行われ、年中無休の営業で活況を呈しました。昭和6年(1931)大阪市中央卸売市場に合併しました。画面手前の橋は天神橋です。


 摂津名所図会には「天満市之側」が描かれています。こちらでは、川の水位が上下しても船からの陸への人やモノの移動ができるように設置された階段状の「雁木」を使って、荷物を運び上げる人々の様子が描かれ、川沿いの道路上は人と商品であふれかえっています。

摂津名所図会「天満市之側」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華名所獨案内」の青物市場付近を見てみましょう。
 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、天満橋と天神橋の間、大川の北岸に「青物市場」の文字があります。その北側には「天満宮」が描かれています。天満宮よりも大きな文字で「御宮」とあるのは川崎東照宮です。天神橋筋は、「十丁目スジト云」と書かれています。天神橋筋の西側には「市ノ側」の文字が見えます。この地図は、東が上に書かれています。北を上にしましたので文字は右を向いています。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、天満橋の北詰と天神橋の北詰の中間に、「青物市バ」の文字があります。
 天満橋は、谷町筋より一筋東に架かっていたことがわかります。天満橋筋を北へ進むと「御宮」の西側に出ます。
 天神橋の北詰には、「〇十丁メ」の文字があり、天神橋筋は東から数えて十本目の筋ということから「十丁目筋」と呼ばれていたことが分かります。「〇」は、天満組を表しています。一筋東の「九丁メ」は天満宮への参道になっています。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正3年発行の大阪市内詳細図です。天満橋と天神橋の間の北岸には「市ノ側」の文字が見えます。

大阪市内詳細図(大正3年)
(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、天神橋の北詰から東へ進んだところに「〇印に市」の印があります。私設市場の記号です。川沿いにびっしりと並ぶ建物が青物市場を表しています。

大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、天神橋と天満橋の間に「天満配給所」の文字があります。昭和6年(1931)に天満青物市場は中央卸売市場へ移転し廃止されましたが、その跡地が配給所となっていたことがわかります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)


 天満青物市場の跡地は現在は南天満公園になっています。桜の名所として知られています。テニスコートもあります。公園内には、天満青物市場跡の碑、淀川三十石船舟唄の碑、天満の子守歌の碑があります。

天神橋から見た南天満公園
八軒屋から見た南天満公園
南天満公園
南天満公園のテニスコート
天満青物市場跡の碑
淀川三十石船舟唄碑
天満の子守歌の碑


 今回は、「浪華の賑ひ」の「天満菜蔬市」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、付近の様子を確かめてください。


〇「企画展:2019年度 建築設計展」は終了しました。
 多くのみなさまのご来場ありがとうございました。



〇次回の企画展示:住まいをデザインする顔-関西若手の仕事-
 令和元年6月15日(土)~7月15日(月・祝)


 関西には数寄屋、町家、長屋など伝統的な住空間と環境が育まれ、それらを土壌として、現代住宅の分野においても多くの先端的な建築家を輩出してきました。近年はAIやIOTなど通信を利用した機器の家庭への進出もめざましく、社会がグローバル化する中で住まいに求められるニーズも多様化しています。若手建築家はこれに応じて新たなツールや技術を利用しながら設計し、多様で可能性あふれるデザインを展開し、新たな活動領域へとネットワークを広げています。
 本展は2013年に行った企画展「住まいをデザインする顔」に続く展覧会で、今回は関西の代表的な住宅建築家である竹原義二氏・岸和郎氏の企画で、40歳以下のクリエーター30名の多様化する仕事をマッピングして活動領域を可視化し、模型、図面や写真パネル等で紹介します。リアルで先進的な住まいをデザインする人々の仕事の今に触れ、未来の住まいづくりへの予感を提示します。


1.会  期:2019年6月15日(土)~2019年7月15日(月・祝)
  入 館 料: 企画展のみ300円
        常設展+企画展   一般800円(団体700円)
        高・大生500円(団体400円)(要学生証提示)
  *団体は20名以上
  *年間パスポート、大阪周遊パスで入場可。
  *中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、
   大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書提示)。
  交  通:Osaka Metro堺筋線・谷町線、阪急線「天神橋筋六丁目駅」
       3番出口から直結
       JR大阪環状線「天満」駅から北へ650m

2.出展者(50音順、敬称略)
石倉康平(石倉建築設計事務所)
今村謙人(カモメ・ラボ)
大庭徹(大庭徹建築計画)
奥田晃輔・堀井達也(OHArchitecture)
加藤正基
川上聡(SATOSHI KAWAKAMI ARCHITECTS)
川口裕人+湯川晃平(1110建築設計事務所+ユカワデザインラボ)
貴志泰正(貴志環境企画室)
北川 浩明+今津修平(COCCA)
京智健(京智健建築設計事務所)
小松一平( 小松一平建築設計事務所)
近藤陽子(nLDK一級建築士事務所)
佐藤伸也(佐藤伸也建築設計事務所)
瀧尻賢
田中郁恵(田中郁恵設計室)
殿井環 芦田奈緒(TAO)
中西ひろむ(中西ひろむ建築設計事務所)
中村重陽・中村紀章(中村×建築設計事務所)
西山広志・奥平桂子(NO ARCHITECTS)
半田俊哉・平田智子(エイチ・アンド一級建築士事務所)
藤田慶(フジタケイ建築設計事務所)
古川晋也・門間香奈子(モカアーキテクツ)
堀賢太(堀賢太建築設計事務所)
前田裕紀 奥井希 野崎将太+飯坂拓也(前田文化+MICROCOSMOS)
松本光索(KOSAKU MATSUMOTO)
安川雄基・冨吉美穂(アトリエカフエ)
山口晶・白石雄大・山口みどり・大島亮(TEAMクラプトン)
山口陽登(YAP)
吉田甫(HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE)
吉永規夫・吉永京子(Office for Environment Architecture)

3.企画委員
竹原義二 氏(無有建築工房)
岸和郎 氏(K.ASSOCIATES/Architects)

4.関連事業
1.トークセッション 【1】
  出展者が住まいのデザインの今について語ります。
   日   時:2019年6月16日(日)13:30~16:00(13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 5階研修室(当館ビル5階)
   出演者:出展者、特別ゲスト 芦澤 竜一氏(芦澤竜一建築設計事務所)、香川 貴範氏(SPACESPACE一級建築士事務所)
   参 加 費:無料
   定   員:50名(要事前申込 先着順)

2.トークセッション 【2】
   日   時:2019年6月29日(土)13:30~16:00(13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 5階研修室(当館ビル5階)
   出演者:出展者、特別ゲスト 遠藤克彦氏(遠藤克彦建築研究所)
   参 加 費:無料
   定   員:50名(要事前申込 先着順)

3.シンポジウム「住まいをデザインする顔」
  今回の展覧会の企画委員をつとめた建築家竹原義二氏による講演会。後半には出展者を交えて意見交換を行います。
   日   時:2019年6月22日(土)13:30~16:00 (13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 3階ホール(当館ビル3階)
   講   師:竹原義二 氏(無有建築工房)  パネリスト:竹原義二 氏、出展者
   参 加 費:無料
   定   員:200名(要事前申込 先着順)

4.ギャラリートーク
  出展者が展示品を解説します。
  申込み不要、企画展の入場料が必要です。



〇今週のイベント・ワークショップ

6月12日(水)~15日(土)、17日(月)、19日(水)~22日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

6月16日(日)、23日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



6月15日(土)
町家衆イベント 折り紙(有料)

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00

6月16日(日)
町家衆イベント 紙芝居

昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

イベント 今昔庵茶会―お煎茶― 町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
当日先着50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションにてお茶券を販売します
13時~15時30分

そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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