2019年7月16日火曜日

今週の今昔館(172) 櫻宮 20190716

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(10)

 今回は「浪華の賑ひ」の「櫻宮」をご紹介します。

■櫻宮
 桜の宮は淀川の東の岸にありて社頭はいふもさらなり、水辺より馬場の堤にいたるまで一円の桜にして、弥生の盛りには雲と見、雪と疑ふ光景(ありさま)、西の岸は川崎堤より北につづきて、堀川の樋の口まで、ここも桜の並木なれば、川をはさみて両岸の花、爛漫として水に映じ、川風花香を送りて、四方(よも)に馥郁たり。
 さる程に都下の貴賤老若、陸(くが)を歩み、船にて通ひて諷ふあり、舞ふありて、終日(ひねもす)遊宴す。げに浪花において花見の勝地といふべし。

浪華の賑ひ「櫻宮」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華の賑ひ」の本文には「桜宮」として以下のように記載されています。

 網島の北にあり
 祭るところ天照皇太神にして、例祭九月二十一日なり。当社は旧野田の小橋故大和川の堤、字を桜野といへる所に有りしを、後世ここに移す。ゆゑに旧地の名をもて、桜野宮と号せしが、いつしか社頭の傍に数百株桜を植ゑしより、今は桜の宮と称して花ゆゑ号(なづ)けしごとくなるも、いはゆる名詮自性(みょうせん-じしょう)なるべし。
 またこれより十丁ばかり川上に母恩寺といふ女僧寺(あまでら)あり。尼僧常に綿帽を製す。すこぶる光美(つやけく)して名物なり。
 当寺の北東なる田圃の中に鵺塚(ぬえづか)といへるあり。頼政の射留めし化鳥を埋めむ所と云ふ。


 浪花百景にも「さくらの宮景」がありますので、見てみましょう。

■さくらの宮景(国員画)
 桜宮の創建については不詳ですが、たびたびの淀川の洪水を受けて社殿が流出、そのたびに移転したようです。当地への遷座は宝暦6年(1756)とされ、桜野という地名にあやかって努めて桜を植え、境内から大川堤まで続く桜の景勝を整えました。
 花の季節には雲か雪かと見間違う程見事な景色だったと伝えられ、境内の前から対岸の川崎・木村堤へ渡しが出され、桜の渡しと呼ばれました。また川を埋めるほどの屋形船が仕立てられて、様々に爛漫の春を楽しみました。川風に運ばれて辺り一帯に馥郁たる香りが広がり、「摂津名所図会大成」は、「浪花において花見随一の勝地といふべし」と記しています。浪花随一の花見の名所は今も変わりません。
 また堤の下に青湾と称される小湾があり、ここの水は大変きれいだったため、茶の湯に最も適すると雅人に愛用されました。

浪花百景「さくらの宮景(国員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 桜宮は、浪華の賑ひ、浪花百景のほかにも、多くの文献に取り挙げられています。
 『摂津名所図会大成』には「当社其初ハ野田の小橋故大和川の堤の字(あざな)を桜野といふ所にありしを後世こゝに迁(まわ)すゆへに旧地の名を以て桜野宮と号せしがいつしか境内のほとりに数百株の桜を植しより今ハ桜の宮と称して花ゆへなづけし如くなる」「浪花において花見第一の勝地なり」とあります。

 また、『摂津名所図会』には「この社頭に神木とて桜多し。弥生の盛りには、浪花の騒人ここに来つて幽艶を賞す。淀川の渚なれば、きよらなる花の色、水の面にうつるけしき、塵埃を避けて神慮をすずしめ奉るなり」「咲くからに見るからに花の散るからに」と賞され、文人に愛される桜の名所でした。

摂津名所図会「櫻宮」
大阪市立図書館デジタルアーカイブ


 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、「天満バシ」の右手(東側)に「野田村」があり、その北側に「大長寺」、さらに北に「櫻ノ宮」があります。対岸の川崎御蔵との間を「源八ワタシ」が結んでいます。この地図は、東が上に書かれており、北を上にしましたので文字は右を向いています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、「野田村」と「中野村」の間に「櫻ノ宮」があります。脇を水路が流れていました。対岸には「木村ツツミト云」の文字が見えます。木村堤も桜の名所として有名でした。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、「泉布観」「三菱精錬所」の対岸に「櫻ノ宮」が描かれています。桜之宮橋の架橋前で、木製の「よどかわばし」が架かっています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「桜ノ宮公園」の北側に「桜ノ宮」の文字が見えます。東野田町、中野町の地名も見えます。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治41年では、「淀川橋」の北側に「桜宮」の文字が見えます。東野田、中野の地名も見え、農地が拡がるなかに「あみじま」駅があります。ここから関西鉄道の名古屋行直通列車が走っていました。「さくらのみや」駅の北には水源地が描かれています。大阪市の水道発祥の地です。
 右上の昭和4年では、南北に市電が走り網島駅の跡地に「工業大学」が建ち、周辺の市街化が進んでいます。水源地の跡が淀川貨物駅になっています。

明治41年から昭和22年の地形図と現在の空中写真
(今昔マップ3より)

 左下の昭和22年を見ると、白くなっている部分が戦災によって焼失した地域で、この地域は大きな被害を受けています。「櫻ノ宮」の文字は見えます。
 右下は最近の空中写真です。大川沿いに河川公園が整備され、その脇に桜宮の緑も写っています。

 現在の櫻宮の状況です。大川の自然堤防上に鳥居、本殿が並び、境内には、江戸時代献納の灯籠や、往来安全の石碑、伊勢神宮の遥拝石などが残っています。

現在の櫻宮の鳥居
櫻宮の本殿
寛政元年献納の灯籠
「往来安全」の石碑
伊勢神宮の遥拝石

 大川河川敷の桜之宮公園に「青湾」の碑があります。文久2年(1862)に建てられたものと伝えられています。

桜之宮公園にある「青湾」の碑
「青湾」の史跡案内板
桜之宮公園の案内図(右が北)

 今回は、「浪華の賑ひ」の「櫻宮」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、大正時代の櫻宮付近の様子を確かめてください。

〇企画展「住まいをデザインする顔-関西若手の仕事-」終了しました。
 多くのみなさまのご来場ありがとうございました。


〇次回の企画展「大大阪時代に咲いたレトロモダンな着物たち~北前船(きたまえぶね)船主・大家(おおいえ)家のファッション図鑑~」
 2019年7月24日(水)~9月1日(日)


 江戸時代後期から昭和戦前期まで、北前船の船主として(明治中期以降は汽船会社を経営)繁栄した大家七兵衛家には祖母・母・娘へと3代にわたって引き継がれた大正・昭和期の着物が数多く残されています。この貴重な着物類が、大阪くらしの今昔館に寄贈されたのを機に、展示公開する運びとなりました。

 これらは船主ならではのイベント、進水式で着用された振袖をはじめ、留袖や訪問着などの礼装、小紋のおしゃれ着、銘仙の普段着のほか、お宮詣りや七五三、十三詣りの子供用の晴れ着など多岐にわたっています。華やかで大胆な柄、洗練された幾何学模様、斬新な色使いに、大正ロマン・昭和モダンの時代の雰囲気を感じることができます。



〇今週のイベント・ワークショップ

7月17日(水)~20日(土)、22日(月)、24日(水)~27日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

7月21日(日)、28日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


7月21日(日)
町家衆イベント 紙芝居

昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時



町家衆イベント 連鶴(有料)
折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
    14:30~中級者以上向け



町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00



町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00



イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションにてお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時


7月26日(金)
町家衆イベント ワークショップ『かんたん万華鏡作り』
13時30分~15時00分
当日先着20名、参加費200円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

7月27日(土)
イベント インターナショナル町家寄席 Rakugo in English

外国の方も日本の方も楽しめる落語会、英語で落語をきいてみませんか
出演:桂あさ吉
14時~15時

町家衆イベント ワークショップ『風鈴づくり』
①13時30分 ②14時30分
当日各回先着10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

7月28日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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