2019年7月2日火曜日

今週の今昔館(170) 鶴満寺 20190702

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(8)

 今回は「浪華の賑ひ」の「鶴満寺」をご紹介します。

■鶴満寺
 天満十丁目すぢの北にあり。南長柄(ながら)といふ。当寺の梵鐘(つりがね)は長州侯よりの寄附にして、もとは唐土(もろこし)の器物なり。鋳銘に云ふ、大平十年二月云々。また、境内に糸桜の大樹ありて、花の盛りには幽艶にして騒人・墨客打ちむれて風流に乗ず。
 中々に嵐につよし糸桜 柳亭翠鶯

浪華の賑ひ「鶴満寺」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 浪花百景にも「鶴満寺之夕景」がありますので、見てみましょう。


■覚満寺之夕景(芳雪画)
 鶴満寺は、慈覚大師円仁作と伝えられる木造阿弥陀如来立像(大阪府指定文化財)を本尊とする天台真盛宗の寺院。寺伝によると、もと河内国にあった同寺が荒廃していたのを、猟師瓦林鶴林が長年の殺生を悔いて南方村に再興、その後また荒廃していたのを18世紀半ば大坂の豪商上田氏の発願によって当地に移し、忍鎧上人を中興として招いたとされます。この時、本堂・客殿・観音堂など七堂伽藍を整え、同時に境内に多くの枝垂れ桜を植え育てました。春には桜ノ宮と並ぶ花の名所として評判となり、境内には床几を出し、茶屋も設けられ、文人墨客の訪れる所となりました。
 今日、本堂向かって右側に建つ三層八角塔形の楼閣造りのお堂は、子安聖観音を祀る観音堂で、両脇壇には西国・秩父・坂東のいわゆる観音霊場百カ所巡りの本尊模刻百体が安置され、地下には戒壇巡りも設けられています。

浪花百景「覚満寺之夕景(芳雪画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、地図の範囲は「櫻ノ宮」「源八ワタシ」あたりまでで、さらに北に位置する「覚満寺」は含まれていません。この地図は、東が上に書かれており、北を上にしましたので文字は右を向いています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 また、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ても、中野村、源八渡あたりまでで、覚満寺は地図の範囲に入っていません。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 そこで、文化3年(1806)発行の「増修改正摂州大阪地図」を見てみましょう。「国分寺村」の北に「国分寺」があり、その北には「南長柄村」があります。その東側、黒い線で描かれた堤防の傍に、「正徳寺」「鶴満寺」「八幡」が並んで建っています。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、市電が通る都島通りの「國分寺」までが地図の範囲で、当時大阪市域に含まれていなかった長柄周辺は描かれていません。なお、市電の長柄国分寺停留所の西にある「市民館」の跡地に、現在の住まい情報センター、大阪くらしの今昔館が建っています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、天神橋筋六丁目に「新京阪電車」「京阪デパート」の挿絵が描かれ、その右手の市電「淀川」停留所の北側に「隺満寺」の文字が見えます。「鳥」が省略されていますが、「鶴満寺」が描かれています。周辺には「王子製紙」ほか、いくつかの工場の記号が目に付きます。京阪デパートの北には、「関大専門部」「葬儀場」「長柄墓地」があります。関大と墓地の間の道は高槻・亀岡方面に通じる高槻街道です。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 地形図でも確認してみましょう。まずは、明治18年の陸地測量部地図です。1枚目は天満から長柄、毛馬、柴島にかけての広域。天満の市街地から天神橋筋商店街が北へ伸びている様子が分かります。


明治18年陸地測量部地図(国際日本文化研究センター蔵)

 2枚目は、長柄付近の拡大図です。地図の左下に天神橋筋商店街があり、その北端部から北北東方向に高槻街道がつながっています。街道の右手(東側)に國分寺村と南長柄村があります。國分寺村の「國」の字の左手に寺の記号が見えるのが鶴満寺です。

明治18年陸地測量部地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、その後の長柄周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治41年では、天神橋筋商店街がさらに北へ伸び、高槻街道沿いにも家屋が並んでいます。街道の右手に見える寺の記号が鶴満寺です。
 右上の昭和4年では、新京阪の「てんじんばし」駅が描かれ、そこから右に進むと、郵便局、寺、神社の記号があり、その先にも寺の記号が見えます。左から順に、長柄国分寺、八幡神社、正徳寺、鶴満寺となります。関西大学、製紙工場の文字も見えます。

明治41年から最近の地形図
(今昔マップ3より)

 左下の昭和22年を見ると、「てんじんばし」駅の右手の白い部分は戦災によって焼失した地域です。お寺、神社の記号は同じ位置に残っています。
 右下は最近の国土地理院地図です。「天神橋筋六丁目駅」が2つ並んでいますが、上が谷町線、下が堺筋線および阪急線の駅を示しています。上の方の「駅」の文字の右手にお寺の記号が2つ見えますが、上が鶴満寺、下が正徳寺を示しています。鶴満寺の東から北にかけては、淀川リバーサイド地区再開発によって住宅団地となり、お寺の西側に都市計画道路新庄長柄線が通っています。


 現在の鶴満寺付近を写真で見てみましょう。最初の写真は都市計画道路新庄長柄線の西側から鶴満寺の全景を見たものです。右手から観音堂、本堂、3階建てのビルは特別養護老人ホーム聚楽院です。背景には、淀川リバーサイド地区の住宅群が写っています。

鶴満寺全景
鶴満寺山門
本堂(左)と観音堂(右)
子安聖観音を祀る観音堂
鶴満寺聚楽院(特別養護老人ホーム)
鶴満寺保育所(道路の西向かい)

 今回は、「浪華の賑ひ」の「鶴満寺」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、付近の様子を確かめてください。


〇企画展「住まいをデザインする顔-関西若手の仕事-」開催中です
 令和元年6月15日(土)~7月15日(月・祝)


 関西には数寄屋、町家、長屋など伝統的な住空間と環境が育まれ、それらを土壌として、現代住宅の分野においても多くの先端的な建築家を輩出してきました。近年はAIやIOTなど通信を利用した機器の家庭への進出もめざましく、社会がグローバル化する中で住まいに求められるニーズも多様化しています。若手建築家はこれに応じて新たなツールや技術を利用しながら設計し、多様で可能性あふれるデザインを展開し、新たな活動領域へとネットワークを広げています。
 本展は2013年に行った企画展「住まいをデザインする顔」に続く展覧会で、今回は関西の代表的な住宅建築家である竹原義二氏・岸和郎氏の企画で、40歳以下のクリエーター30名の多様化する仕事をマッピングして活動領域を可視化し、模型、図面や写真パネル等で紹介します。リアルで先進的な住まいをデザインする人々の仕事の今に触れ、未来の住まいづくりへの予感を提示します。



1.会  期:2019年6月15日(土)~2019年7月15日(月・祝)
  入 館 料: 企画展のみ300円
        常設展+企画展   一般800円(団体700円)
        高・大生500円(団体400円)(要学生証提示)
  *団体は20名以上
    *年間パスポート、大阪周遊パスで入場可。
  *中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、
   大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書提示)。
  交  通:Osaka Metro堺筋線・谷町線、阪急線「天神橋筋六丁目駅」
       3番出口から直結
       JR大阪環状線「天満」駅から北へ650m

2.出展者(50音順、敬称略)
  石倉康平(石倉建築設計事務所)
  今村謙人(カモメ・ラボ)
  大庭徹(大庭徹建築計画)
  奥田晃輔・堀井達也(OHArchitecture)
  加藤正基
  川上聡(SATOSHI KAWAKAMI ARCHITECTS)
  川口裕人+湯川晃平(1110建築設計事務所+ユカワデザインラボ)
  貴志泰正(貴志環境企画室)
  北川 浩明+今津修平(COCCA)
  京智健(京智健建築設計事務所)
  小松一平( 小松一平建築設計事務所)
  近藤陽子(nLDK一級建築士事務所)
  佐藤伸也(佐藤伸也建築設計事務所)
  瀧尻賢
  田中郁恵(田中郁恵設計室)
  殿井環 芦田奈緒(TAO)
  中西ひろむ(中西ひろむ建築設計事務所)
  中村重陽・中村紀章(中村×建築設計事務所)
  西山広志・奥平桂子(NO ARCHITECTS)
  半田俊哉・平田智子(エイチ・アンド一級建築士事務所)
  藤田慶(フジタケイ建築設計事務所)
  古川晋也・門間香奈子(モカアーキテクツ)
  堀賢太(堀賢太建築設計事務所)
  前田裕紀 奥井希 野崎将太+飯坂拓也(前田文化+MICROCOSMOS)
  松本光索(KOSAKU MATSUMOTO)
  安川雄基・冨吉美穂(アトリエカフエ)
  山口晶・白石雄大・山口みどり・大島亮(TEAMクラプトン)
  山口陽登(YAP)
  吉田甫(HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE)
  吉永規夫・吉永京子(Office for Environment Architecture)

3.企画委員
竹原義二 氏(無有建築工房)
岸和郎 氏(K.ASSOCIATES/Architects)

4.関連事業
1.トークセッション 【1】【終了しました】
  出展者が住まいのデザインの今について語ります。
   日   時:2019年6月16日(日)13:30~16:00(13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 5階研修室(当館ビル5階)
   出演者:出展者、特別ゲスト 芦澤 竜一氏(芦澤竜一建築設計事務所)、香川 貴範氏(SPACESPACE一級建築士事務所)
   参 加 費:無料
   定   員:50名(要事前申込 先着順)

2.トークセッション 【2】
   日   時:2019年6月29日(土)13:30~16:00(13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 5階研修室(当館ビル5階)
   出演者:出展者、特別ゲスト 遠藤克彦氏(遠藤克彦建築研究所)
   参 加 費:無料
   定   員:50名(要事前申込 先着順)

3.シンポジウム「住まいをデザインする顔」【終了しました】
  今回の展覧会の企画委員をつとめた建築家竹原義二氏による講演会。後半には出展者を交えて意見交換を行います。
   日   時:2019年6月22日(土)13:30~16:00 (13:00開場・受付開始)
   場   所:大阪市立住まい情報センター 3階ホール(当館ビル3階)
   講   師:竹原義二 氏(無有建築工房)  パネリスト:竹原義二 氏、出展者
   参 加 費:無料
   定   員:200名(要事前申込 先着順)

4.ギャラリートーク
  出展者が展示品を解説します。
  申込み不要、企画展の入場料が必要です。



〇今週のイベント・ワークショップ

7月3日(水)~6日(土)、8日(月)、10日(水)~13日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

7月7日(日)、14日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


7月7日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

7月10日(水)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

7月13日(土)
町家衆イベント ワークショップ 『ミニすだれ』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

7月14日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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