2021年4月7日水曜日

今週の今昔館(261) 淀堤 20210407

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(40)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「淀堤」をご紹介します。伏見から淀までの間、宇治川の堤には松林が続いていました。


■淀堤
 京橋を出発し宇治川本流に出ると、三栖から淀小橋までの約一里にわたる淀堤には松林が続き、見事な眺めでした。
 これを俗に千両松と称しました。「三十石船唄」に、

 淀のうわての千両の松は 売らず買わずの見て千両

と歌われるように、その名の由緒は、あまりにも見事な松に眺めるだけで千両の価値があるという意味です。

 挿絵を見ると、この美景を求めて屋形船が上がってゆく姿が見られます。この屋形船も、やはり上りは曳き船をしていて、綱の引き手は三十石船の5人に対して、乗客の少ない屋形船は2人で、いずれも前傾姿勢で渾身の力で引いている様子です。下り船が悠々と櫓で遣る姿とは対照的です。これを賞して、船頭仲間では「下り大名、上り乞食」と言う慣わしがあったほどです。

淀川両岸一覧下船之巻「淀堤」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 絵の上部には、「淀堤 俗に千両松といふ」とあり、以下の賛が添えられています。

 これでこそ千両松よほととぎす 翠翁
 稲妻に爪(つま)づく淀の堤かな 士朗
 大名の通り過ぎけり秋の松 和及

 本文の解説は次のとおりです。
■伏見口
 下三栖の下にあり。石銭番所・黒門等あり。伏見京橋よりこの所まで、水上およそ十三丁半。
■淀堤
 伏見口の下にあり。伏見口より淀領の境まで水上およそ十二丁半余り。三栖より淀小橋まで行程一里の間松林にして景色よし。
■千両松
 堤の間の松をいふ。あるいはいふ、数株の内にてその形よき名木あり、これを賞して名づくとぞ。按ずるに、一株の松をさして称するにはあるべからず。長き堤の間その風景の勝れたるを賞して俗に千両の名を蒙らせしものなるべし。もっとも千両は賞せし号にして、価のことにはあるべからず。この堤は秀吉公の御時築かせたまふといふ。


 「都名所図会」、「拾遺都名所図会」には淀堤の挿絵はありませんが、「拾遺都名所図会」の本文に、

 ≪淀堤 淀小橋の北爪より伏見三栖に至る道なり。行程一里、秀吉公の御時作れるなり。≫

と、解説があります。


 次に、大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の淀堤付近を見てみましょう。この絵は北から見た風景を描いていますので、左手が伏見、右手が淀になります。絵の手前側、宇治川の右岸には松並木の絵が描かれています。水主たちが堤に上がり、曳き船をしている様子も描かれています。右端に描かれている橋は淀小橋です。右上には淀城が見えます。

「よと川の図」の淀堤付近(大阪くらしの今昔館蔵)


 伏見付近の様子を地形図で見てみましょう。
 1枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。図の右上が伏見の町です。宇治川から濠川が分岐して町に入り、船着き場になっています。
 図の左下が淀城と城下町=宿場町です。当時は宇治川は淀の町の北側を流れ、町の北側に架かる橋が淀小橋です。
 伏見と淀の間は、南には巨椋池(地図では巨椋湖)があり、堤の北側には水面と湿地帯が広がっています。淀小橋の下流で桂川が宇治川に合流し、淀川となります。

明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵

 次に、今昔マップを利用して昔と今の様子を見比べてみます。一枚目は、左は明治42年陸地測量部地図、右は最新の地理院地図です。二枚目は、左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 左側の図では、宇治川の北側の水面には「横大路沼」の文字が見えます。堤に沿って「京阪電気鐡道」が走っています。図の左下を見ると、宇治川が直線状に流れるように川筋が付け替えられています。元の川筋が西向きに流れていた痕跡も見えます。
 右の図では、横大路沼は埋め立てられて陸地になっています。巨椋池は干拓されて水田となっています。赤い道路は国道、緑は高速道路、黄色は府道を示しています。
 2枚目の地図の左側を見ると、横大路沼の部分は黄色に赤い横線が引かれ、埋め立てられたことを示しています。右側の図では、左下の宇治川の旧川筋は埋め立てられて宅地になっています。

今昔マップより淀堤付近
今昔マップより淀堤付近

 3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。5mから5m刻みで色を変えています。この地域は、大半が10m~15mの薄い水色ですが、図の中央の横大路運動公園の部分は埋め立てて盛土がされて地盤が高くなっています。

地理院地図+自分で作る色別標高図



 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「淀堤」をご紹介しました。


〇企画展「博覧会の世紀1851-1970」は終了しました

〇大阪くらしの今昔館は、4月5日(月)から9日(金)までの間、展示替えのため休館となります。
4月10日(土)からは、「夏祭りの飾り」の展示になります。


〇次回の企画展は「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる」

 令和3年4月17日(土)~6月13日(日)

 大阪くらしの今昔館では現代日本画家の個展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ」を開催します。
 日本の絵画は住まいの中で、座敷における「しつらい」として親しまれてきました。中でも四季の彩りを表す花鳥画は古くから愛好され、現代においても人気のある画題のひとつです。
 重岡良子氏は自然の中に身を置いて花や鳥などの動植物を写生し、その心を50年にわたって描き表してきました。また、京都で培われた「琳派」に着想を得て「IMA琳派」として装飾性を持たせた作品も発表されています。今回は屏風を中心に代表的な作品を披露します。
 春から初夏にかけて草木が青々とするこの時期に、日本画のもつ繊細かつ優美な色彩の織り成す世界をご堪能ください。

【インタビュー動画】重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ
 こちらからどうぞ⇒https://www.youtube.com/watch?v=KJRYeH5yqWk


喜雨滴る
あお麦風々
桜東風
朝露涼夏
ランプシェード


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
 ① 11 時 30 分~(約 30 分)
 ② 14 時 30 分~(約 30 分)

・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
http://konjyakukan.com/shop.html


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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