2021年4月21日水曜日

今週の今昔館(263) 大山崎 20210421

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(42)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「大山崎」をご紹介します。大山崎は天王山への登り口に位置し、天王山の山並みの先端にあたります。


■大山崎、天王山、観音寺、宝寺
 淀を過ぎると右手に天王山、左手に男山が淀川を挟む格好で、ちょうど京の喉元を押さえるかのように向かい合って立っています。大山崎はこの天王山への登り口に位置し、その名の通り天王山の山並みの先端にあります。
 この辺りが都への南の玄関として、歴史上の要衝地であったことは、秀吉が明智光秀を破った山崎の戦など、争奪が激しかったことからもわかります。
 また、天王山には挿絵にもあるように、観音寺、宝寺(宝積寺)の他、大念寺、酒解神社など数々の古社寺が建ち並び、さしずめ山全体が神仏の霊場のようなものでした。
 乗客は船中からこの神々しい山稜を見上げながら、いにしえの合戦に思いを馳せたのでしょうか。

淀川両岸一覧下船之巻「大山崎、天王山、観音寺、寳寺」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 絵は淀川右岸の天王山を、対岸の橋本から眺めた風景を描いています。天王山の麓、山崎について、本文は次のように記しています。

 ≪茶店、旅舎(はたご)多く有て賑わし。此所、参詣所しばしばあり。≫

 茶店や旅籠が多くあったのには理由があります。つまり、「参詣所」とあるように、寺社仏閣が点在していたからなのです。
 絵の右側、山の中腹にみえる鳥居は「大山崎天王社」、いまの自玉出祭来酒解神社(たまでよりまつりきたるさけとけじんじゃ)です。その右下に見える伽藍は「観音寺」、「山崎の聖天さん」の名で親しまれている妙音山観音寺です。絵の左にみえる三重の塔は「宝寺」、すなわち天王山宝積寺です。ほかにも、千利休が住まった妙喜庵、離宮八幡宮など、旅人の心を惹きつける名所にことかかない。それが当時の山崎という土地だったのです。

 本文の解説には次のようにも記されています。

 ≪此の大山崎の駅路は京師九条東寺の西、四ツ塚より西南につづき、桂川久世橋を渉り、向町を歴て山崎に向ひ、関戸院の旧跡に至る。是関西三十三州の官道にして、文禄年中、豊臣秀吉公朝鮮征伐の時、闢(ひら)く所也。故に唐街道(からかいどう)といふ。≫

 ここにある官道、唐街道とは、西国街道のこと。淀川を利用した京坂の「川の道」は、右岸の西国街道、左岸の東海道(京街道)とともに、発展していったのです。

 絵の賛は次の漢詩と発句です。

 窃窕たる●城、水湾を臨む (●はさんずいに奠)
 豊公曽て此に 瑤顔を蓄ふ
 閨中に誇て指す天王の色
 是我當年賊を破るの山  鎮西 韓中秋

 山吹の 庭にも咲くや 宝寺  沂山

 聞きはづす ばかりに啼くや ほととぎす 醒花

本文の解説は次のとおりです。
■神木(かみのき)
 法西川の西にあり
■円明寺
 神木村の下にあり
■円明寺川
 同村を経て淀川に入る
■狐渡口
 円明寺の浜より八幡の浜にわたす舟わたしなり。渡の長さ百十間といふ。俗に狐川といふ。誤りなり。川は淀川にして、別に名なし。
■山崎
 円明寺村の下にあり。茶店・旅舎(はたごや)多くありて賑はし。この所参詣所しばしばあり。あらましをここに出だす。
■大山崎天王社
 天王山といふ。祭神素戔烏尊の御子八王子を鎮座したまふ。山崎郷中の生土神(うぶすな)とす。例祭四月八日、神輿三基を出だす。
■古戦場
 天正十年、羽柴秀吉、明智光秀と戦ふ。世に山崎合戦といふ。
■観音寺
 天王山の東半腹にあり。真言宗なり。
 本尊観世音(聖徳太子の御作)
 祖師堂(本堂の左にあり、弘法大師の像を安ず)木食以空僧正中興して、当時のごとく再建あり(当時の客殿より淀・八幡の風景眼下にさへぎりて、魂をいたましむるの佳境なり)聖天堂(本堂の前、右の傍にあり。霊験あらたなりとて世に名高し)
■宝寺
 観音寺の南にあり、補陀洛山宝積寺と号す。真言宗なり
 本尊十一面観世音(立像にして聖武天皇と行基大士の両作なり)
 三重塔(大日如来を安置す)聖武帝石塔婆(庭上にあり)
■古城蹟
 観音寺と宝寺の間にあり。文明二年山名是豊・赤松一族上洛してこの城を築くといふ
■妙喜庵
 宝寺の梺にあり。禅宗にして本尊十一面観世音なり。千利休この所に住し二畳じきの囲を建つる。豊公をりをりいらせたまひ、茶の湯ありしとぞ。袖すりの松とて名木あり。

 本文は、このあと、
■離宮八幡宮
■菅公腰掛石
■関戸明神社
■大山崎西観音寺
■関戸院の旧蹟
■橋本渡口
■水無瀬川
■水無瀬渡口
■広瀬

 右一村なり。淀小橋よりこの所まで水上およそ五十町ばかり、この地より西、桜井に待宵小侍従、古曾部に能因法師の古跡等あり。
■水無瀬殿
■後鳥羽院御廟
■阿弥陀院
■広瀬神祠
■水無瀬里
■高浜

 広瀬村の下にあり
■高浜渡口
と続きます。(解説文は一部のみ掲載しました。)


 「都名所図会」には「山崎、離宮八幡宮、寶寺、観音寺、八大天王」と「山崎谷の観音」の挿絵があります。

都名所図会「山崎、離宮八幡宮、寶寺、観音寺、八大天王」
(国際日本文化研究センターデータベース)
都名所図会「山崎谷の観音」
(国際日本文化研究センターデータベース)

 次に、大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の山崎付近を見てみましょう。この絵は北から見た風景を描いていますので、左手が伏見、右手が大坂になります。絵の左上の橋は木津川に架かる淀大橋です。絵の手前側に描かれている山が天王山で、「たから寺」「山さき」「離宮八幡」などの文字が見えます。淀川には曳き船をしている三十石船が描かれています。

「よと川の図」の山崎付近(大阪くらしの今昔館蔵)


 山崎付近の様子を地形図で見てみましょう。
 1枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。図の右上が淀の町で、当時は宇治川は淀の町の北側を流れ、町の北側で桂川が宇治川に合流していました。明治初年に付け替えられた木津川が、天王山と男山の間で淀川に合流しています。

明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵

 次に、今昔マップを利用して治水地形分類図を見てみましょう。
 宇治川、木津川、桂川の三川が合流して、天王山と男山の間を流れるこの付近は、洪水が頻繁に起きた地域で、幾度にもわたって河川改修工事が行われました。木津川と宇治川の川筋が新しく築かれ、流れが大きく変わっています。桂川は、以前は淀城の北側で宇治川に合流していましたが、山崎よりもさらに下流側で合流するように堤が築かれました。

今昔マップより山崎付近の治水地形分類図

 3枚目は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。天王山と男山が淀川の流れをせき止めるかのように並んで立っている様子がわかります。赤色は国道、黄色は府道、薄緑色は高速道路です。2つの山の間を右岸に西国街道、左岸に東海道が通っていましたが、現在でも多くの幹線道路と、新幹線、在来線、阪急京都線、京阪本線が通り抜けています。

地理院地図+色別標高図


 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「大山崎」をご紹介しました。



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えます。
 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は、4月10日(土)からは、「夏祭りの飾り」の展示になっています。
http://konjyakukan.com/edo_1.html


〇企画展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる」が始まりました

 令和3年4月17日(土)~6月13日(日)

 大阪くらしの今昔館では現代日本画家の個展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ」を開催します。
 日本の絵画は住まいの中で、座敷における「しつらい」として親しまれてきました。中でも四季の彩りを表す花鳥画は古くから愛好され、現代においても人気のある画題のひとつです。
 重岡良子氏は自然の中に身を置いて花や鳥などの動植物を写生し、その心を50年にわたって描き表してきました。また、京都で培われた「琳派」に着想を得て「IMA琳派」として装飾性を持たせた作品も発表されています。今回は屏風を中心に代表的な作品を披露します。
 春から初夏にかけて草木が青々とするこの時期に、日本画のもつ繊細かつ優美な色彩の織り成す世界をご堪能ください。

【インタビュー動画】重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ
 こちらからどうぞ⇒https://www.youtube.com/watch?v=KJRYeH5yqWk


喜雨滴る
あお麦風々
桜東風
朝露涼夏
ランプシェード


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
 ① 11 時 30 分~(約 30 分)
 ② 14 時 30 分~(約 30 分)

・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
http://konjyakukan.com/shop.html


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
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