2018年12月4日火曜日

今週の今昔館(140) 錦城の馬場 20181204

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(45)

 今回は、「錦城の馬場」をご紹介します。

■錦城の馬場(國員画)
 江戸時代、大坂の人々は、大坂城を錦城、城の追手門(大手門)前の広場を馬場と呼んでいました。
 豊臣政権本城の壮麗な大坂城は大坂夏の陣で落城し、戦火によって焼失。続く徳川幕府は威光を示すように、面積こそ豊臣時代には及ばないものの天守や石垣の高さで秀吉大坂城をしのぐ城を天下普請で新たに修築しました。徳川大坂城は幕府の強大な権威を印象付け、錦城または金城と美称されました。
 立春を過ぎた初午の日は商家が勧進した稲荷社祭礼の日で、商売繁盛を願う大坂の人にとってもなじみが深いものでした。この日、城の西側、大手門前の芝生が広がる馬場が開放され、大人から子どもまで大勢の人が凧揚げや行楽に訪れ、紙張りの囲いばかりのシンプルな茶店がいくつも出てにぎわったといわれます。大きな日傘の付いた茶店は「傘の下」と呼ばれていました。
 明治初年まで、生玉表門前に馬場先の地名が残っていました。ちなみに大阪城の南西、以前NHK大阪放送局のあったところ(馬場町角)やKKRホテル大阪の住所は現在も馬場町(ばんばちょう)です。

浪花百景「錦城の馬場(國員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、追手口から城に上る坂道と、京バシ口、玉造口の文字が見えますが、それ以外は石垣で囲まれた城の姿が描かれています。追手口の前の道は「追手スジ」で、東横堀に架かる橋は「シアンバシ」となっています。橋を渡るとまっすぐの道はなく、右か左か思案する橋ということから「思案橋」とされました。城の防御のための知恵です。この地図は、東が上に書かれており、北を上にしましたので文字は右を向いています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、「追手口」の前には広場がありますが、特に名前は記されていません。「御城」に入るには、追手口、京橋口、青屋口、玉造口の4つの入り口しかなかったことが分かります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、「追手口」の前から南にかけて広場があり、玉造口の南には「射的場」の文字が見えます。城の中は、陸軍関係の施設が並んでいます。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、上町筋に市電が走り、停留所は北から「偕行社前」「大手前」「馬場丁(町)」となっています。「大阪城公園」「教育記念塔」「中央放送局」「国民会館」「大阪府廰」の文字が見えます。大阪城の天守閣と櫓・石垣、大阪府庁、中央放送局は建物の挿絵が描かれています。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治41年では、大阪城の中および周辺には「M」の印が目立ち、大半が陸軍関係の施設です。大手門の前に広場があり、城の南は「射撃場」となっています。
 右上の昭和4年も、同様に陸軍関係の施設となっています。
 左下の昭和22年を見ると、白くなっている部分が戦災によって焼失した地域で、城の中および周辺は大きな被害を受けています。
 右下の昭和42年では、本町通の南に中央大通りが開通し、2つの通りの間に「NHK放送局」があります。ここは、今も「馬場町」です。

明治41年から昭和42年の地形図
(今昔マップ3より)

 大阪城の南西の一角に現在も「馬場町」の地名が残っています。かつて大阪放送局(JOBK)があったところです。「ジャパン・オオサカ・バンバチョウ・カド」の略だと教えてもらったことがありますが、これはジョークでした。コールサイン(呼出符号)ですので、割り当てられた符号で意味はありません。あえて言えば「日本で2番目のラジオ放送局」の意味になります。JOAK東京、JOCK名古屋、JODK京城(廃止)、JOFK広島・・・JOZK松山で、割り当てられていない符号もあります。馬場町角のこの一角は難波宮の史跡指定がされ、農林会館も撤去されました。東部分にはKKRホテルや、NTTのビルなどが建っています。
新装なれる放送局(JOBK)(大阪名所絵葉書)
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
現在の馬場町交差点・北東方向には大阪城天守閣
南東方向にはJOBKの跡地
南西方向は大阪歴史博物館と新NHK
北西方向は大阪府警察本部
現在の馬場町付近(グーグルマップより)

 今回は、「浪花百景」の「錦城の馬場」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。

 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。


〇次回の企画展
「見て、さわって、調べよう。昔のくらし」

2018年12月17日(月)~2019年2月22日(金)
休館日:毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月2日)

 現代の家庭では掃除機や炊飯器を使ったり、スイッチひとつで洗たくをすることは一般的になりました。しかし、少し昔にさかのぼってみると、かまどでご飯を炊いたり、タライで洗たくをしたり、ハタキや雑巾がけなど、手間と時間と使って暮らしていました。その中には暮らしの知恵がいくつもありました。
 電気やガスを使うようになり、便利で豊かな生活を送るために多様な道具が次々と作られました。道具の変化は暮らしぶりの変化でもあり、昔の道具を見ることで当時の様子を想像することができます。

 今回の展覧会では昔のくらしを学ぶ児童の学習を想定し、生活道具の種類ごとの変化や、節供の人形や掛軸など季節の行事に関連するものを展示します。
 道具の体験コーナーでは、昨年よりも触れる道具を増やしました。道具の手触りや重さも体感してください。

新板勝手道具之図 重宣画
絞り器付き電気洗濯機
商業中心地区(船場)
「大阪市大観(大正14年)」より


〇今週のイベント・ワークショップ

12月5日(水)~8日(土)、10日(月)、12日(水)~15日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

12月9日(日)、16日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


12月9日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00

12月15日(土)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

町家衆イベント 折り紙(有料)
季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00

12月16日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪のまちづくり」に掲載しています。  「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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