琵琶湖から大阪湾へと流れる淀川は、人の流れ、物の流れを担う交通の大動脈として機能してきただけでなく、人々の暮らしと大きく関わり、政治・経済・文化にも大きな影響を与えてきました。
「淀川両岸一覧」は、大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介した船旅の案内書で、文久元年(1861)に刊行されました。上り船の部2巻、下り船の部2巻の4巻から成り、上り船の部2巻は淀川左岸の景勝地を、下り船の部2巻は右岸の景勝地を紹介しています。暁晴翁の著述、松川半山の画図によるものです。
今回から新しいシリーズとして、この本に沿って、約160年前の江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの風景を訪ねていきます。
当時の淀川には、過書船と呼ばれる幕府の許可を得て運行する川船が航行し、中でも旅客輸送用の過書船は「三十石船」と呼ばれました。過書とは「関所の通行証」のことです。この船は大坂、伏見間を上下し、各船宿が1日2回昼と夜の定期便を出していました。全長27m、約30人乗りの三十石船は、曳き船が必要な上りには約12時問、川の流れに乗る下りには約6時間を要しました。曳き船とは、急流に逆らって上る時に、船頭らが川岸から綱で船を引き上げることをいいます。
江戸時代の最盛期には、昼夜の上り下りで320雙が就航し、89,000人の乗客を運んだと言われています。
淀川両岸一覧上船之巻二冊・文久3年版(大阪市立図書館蔵) |
淀川両岸一覧・まえがきの続き(大阪市立図書館蔵) |
余浪花に遊ぶごとに必ず船を買ひて澱川を下る。坐して江山の勝を欖(み)、いまだ沿江の諸区を探るに暇あらず。頃日、鶏鳴舎主人、この著を示され、たまたま、また浪華に遊ぶに携えて行く。舟中被閲の間、百里の長堤、邨落(そんらく)、祠観、名区、旧墟、目迎へてこれを送る。一々詳悉なり。長流のまさに尽きんとするを惜しむ。家に帰りて後、謝してこれを還す。今より後、澱水を下るの人々、必ず一本を携へば、けだし主人の賜(たまもの)多とするなり。よって慫慂してこれを刻す。もし、それ賈人・估客ならば、必ず夜航を便とし、迢々(ちょうちょう)たる江水、しばしば、嗟来(さらい)の食を売る声に夢を驚かす。もとより論ずるなかれ。
安政丙辰三月 飄々老人題す
需(もと)めに応じて南陽書す
淀川両岸一覧凡例(大阪市立図書館蔵) |
凡例
一 この書は、浪花より京師へ船にて登る淀川条の両岸の地名を初め、その傍なる寺社および名所古跡を著し、かつその風景絶勝なる所々の図を出だして、船客の慰となす者なり。
一 両岸を一図にうつさん事難(かた)きにあらずといへども、その委しきにいたらず。また、左に奇観ありて右に鄙(ひな)の賤(いや)しき地あり、右に美観ありて左に川添の堤のみなるもありて、その図風流ならざるがゆゑに、いづれも、船中より見わたせし右を図してその順に一覧せしむ。されば前の二巻は上船の右をうつし、のちの二巻は下船の右を画く。ゆゑに上船の巻は下船の左なり、下船の巻は上船の左と心得べし。文もまたこれに准ず。
一 船客これを閲(けみ)したまへば船長に問はずして両岸をくはしく知るべし。
浪、長橋を浸す、二百弓/春陰いまだ霽(は)れず、これ何の虹ぞ/金城、雨を巻きて斜日を呑む/碧殿、雲を穿って大空に縋(すが)る/千店の閭閻(りょえん)、地を撲(う)って列なり/一条の周道(しゅうどう)京に至りて通ず/年々、眺望して思ひ尽くることなし/南国の魚塩、洛中を圧す 洞雲
淀川両岸一覧下船之巻二冊(大阪市立図書館蔵) |
日は洛城に上り端紅を発す/聖朝の徳沢、仰ぎて年(みの)り豊かなり/千門万戸の民、相(あひ)忘る/礼楽長(とこしなへ)に存す、三代の風 樗斎
次回から、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、難波橋、八軒家浜から淀川を遡ることにします。船から見て右側が画かれていますので、淀川南岸(左岸)の桜宮、毛馬、守口、枚方、樟葉、橋本、淀を順に訪ねていくことになります。
挿絵の解説に際しては、「続おおさか漫歩」および「大阪 淀川探訪-絵図でよみとく文化と景観」を参考にさせていただきます。
川の流れは曲がりくねっていることが多く、流れの向きは東西方向、南北方向に変化します。このため、岸を呼ぶときに「左岸」「右岸」という表現をします。この場合の右左は、上流から下流に向かって、左側が左岸、右側が右岸です。川の主役は水ですから、水の流れに沿って、水の立場に立って右左と覚えておくと、間違いません。
〇江戸時代の疫病退散-天神祭の宵宮飾り
大阪くらしの今昔館の近世常設展示室(江戸時代のフロア)では200年前の天神祭の宵宮飾りと疫病退散にまつわる展示を行っています。
御迎人形「酒田公時(金太郎)」(大阪天満宮蔵) 疫病神(疱瘡神)は赤色を 嫌うと信じられていました |
コレラ退治の虎 張子の虎が、店の表で 皆さんをお出迎え |
流行り病に打ち勝つ! 鍾馗さんや神農さんの掛軸を飾る 呉服屋での展示の様子 |
〇大阪くらしの今昔館からのお知らせです。
令和2年6月3日(水)から開館しています
大阪市と協議を重ねた結果、6月3日(水)より再開の運びとなりました。ご来館を心待ちにしておられた皆さまには、長期の休館により多大なご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます。
再開にあたっては、十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
〇特別展「和紙の建築模型 建築起こし絵図―茶室と社寺と即位図と」開催中です
令和2年6月3日(水)~7月12日(日)
建築の魅力は空間デザインにあります。建築家は、スケッチやCG、あるいは模型などを制作して、建築のプレゼンをします。江戸時代の大工棟梁は、和紙で作った起こし絵図を組み立てて、建築空間の魅力を伝えました。建築起こし絵図は、平面図の上に立面図や内部の展開図を描いた和紙を張り合わせたもので、ふだんは折り畳んでおき、見るときには壁面を起こして模型のように組み立てました。いわば、和紙の建築模型です。重要文化財「大工頭中井家関係資料」には建築起こし絵図があります。その大半は茶室や数寄屋建築ですが、社寺建築や京都御所の儀式(即位図)についての起こし絵図も少数ながら含まれています。
本展では、和紙で作った建築起こし絵図を一堂に展観し、平面図や立面図では分からない建築空間の魅力を楽しんでいただきます。併せて、茶室「蓑庵」(大徳寺玉林院・重要文化財)の原寸模型を展示し、実物大の建築空間も体験していただきます。
入館料:特別展のみ300円、常設展+特別展 一般800円(団体700円)、高・大生500円(団体400円)、団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書提示)
【主な展示物】
茶室起こし絵図(中井家約20点+田中家20点)
客殿・書院起こし絵図(約6点)
大徳寺大仙院庭園渡廊起こし絵図
吉田神社大元宮起こし絵図
透廊起こし絵図
中門起こし絵図
即位図起こし絵図
茶室蓑庵実物大模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)
※なお、重要文化財「大工頭中井家関係資料」は中井正知氏・中井正純氏所蔵
〇大阪くらしの今昔館「全編」
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。今回は全4編を通しで見る「全編」をご紹介します。約14分の動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
全4編の目次はこちらからどうぞ。こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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