2020年6月9日火曜日

今週の今昔館(219) 浪華の賑ひのまとめ 20200609

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(50)

 今回は「浪華の賑ひ」の最終回として、全三編のまとめをします。

 令和の時代に入った昨年5月から連載を続けてきました「浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂」は、前回の「解船町」で全三編・51枚の挿絵のご紹介が終了しました。

 「浪華の賑ひ」は暁鐘成が著した大坂名所案内記です。安政2年(1855)4月の刊で、序は、嘉永4年(1851)1月に池田の山川正宣によって識されています。編輯は鶏鳴舎暁晴(暁鐘成)、画図は松川半山によるものです。

 序
 昔こそ、浪速田舎といわれけめ。今は京師(みやこ)に勝るとも劣るべからぬ繁昌の形状(ありさま)を、絵にうつしつつ其所以(ゆえ)を、知るも知らぬも大阪の名だたる際(かぎり)、忘れ草摘む墨吉(すみのえ)や、亀井みなぎる天王寺、春の朝(あした)の桜の宮、秋の夕べのめじるし山(天保山)まで、遺(のこ)るかたなき道標(みちしるべ)は、やみの夜の灯よりなお。あかつき(暁)の翁が筆ずさびを、つくし(筑紫)の終、吾嬬(あずま)の奥も、おしなべてこれに過ぎたる家づとあらじと、彼此(おちこち)人の観やはとどめぬ。
 嘉永四年むつき
 伊居太(いけだ) 山川正宣 識

 たかき屋にのぼりて見ればの御製の有りがたきを今もなほ叡慮にもにぎはふ春の庭かまど はせを

浪華の賑ひ「初編・序」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
浪華の賑ひ「初編・序」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 初編の跋には、
〇此書は遠近の旅客、浪花遊覧の便宜を本とし、且つは故郷への家土産(いえづと)になし賜わん料にとて荒まし名所を著すものなり。
 原来(もとより)其行方(ゆくて)の順路をつづりて一巻となしぬれど、行程許多(そこばく)なれば一日には歩行かたし。
 されば高麗橋より始め天満・川崎および桜の宮・網島・御城の辺りに至れば一日の遊覧事たるべし。
 而して又の日、玉造の辺りよりして真田山・味原池・産湯・梅やしき及び生玉・高津の辺りまでを一日として可なり。
 尚(なほ)次の日の順路は第二編に詳らかに著すべし。
 とあります。

 奥付には、
編輯:鶏鳴舎暁晴翁
画図:松川半山
傭筆(筆耕):鎌田醉翁
書肆(出版者)
京都:吉野家仁兵衛
江戸:山城屋佐兵衛
大阪:河内屋喜兵衛
とあります。

浪華の賑ひ「跋(あとがき)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 暁鐘成(あかつき・かねなり)は、生年:寛政5年(1793)、没年:万延元年(1861)の江戸時代の読本作者。木村氏。弥四郎と称し、鶏鳴舎、暁晴翁などと号しています。大坂で醤油業を営む名家和泉屋の3代目茂兵衛の第4子。庶子として生まれ、分家である2代目和泉屋平八に預けられました。
 土産物雅器店「鹿の家」やサロン的茶店「美可利家」などを営む一方、『以呂波草紙』(1823)、『女熊坂朧夜草紙』(1825)などの読本のほか、啓蒙書や雑書の類、名所図会、考証随筆など、多方面の著述をし、挿絵も描くなど、幕末の大坂出版界では最も人気のある戯作者でした。

 暁鐘成は、幕末・大坂の観光ガイドマップ「浪華名所獨案内」も描いています。(同形式の地図で友鳴松旭図のものもあります)


浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華の賑ひ」二編の扉には、
「芦の錐たつべくもなし津の国のなにはわたりの家のけしきに 栗園」の和歌が記されています。

浪華の賑ひ「二編」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 二編のあとがきには、次のような記載があります。

〇これは初篇につづきて浪花の巽より南の方にいたり、坤(こん:ひつじさる)の辺の名所を次第に著せり。しかれども初篇にひとしく行く程、許多(そこばく)にして一日には行く事かたし。されば、まづ道頓堀をはじめ、寺町・新清水・一心寺を歴て四天王寺にいたるを一日として見物多(さは)なり。かくて復の日、安部野街道を住吉に詣で、木津川の千本松にいたり、木津・難波を遊歴し、今宮に廻り、しかうして市中に帰宿す。しかれども婦女子の徒(ともがら)はなほ歩み難かるべければ、木津川口は別に舟行して、一日の遊観とせば楽しみ深し。



 浪華の賑ひの三篇の表紙と扉です。表紙のタイトルは「浪速乃賑ヒ」となっています。
 扉には、「川口にて もも舟も千船も 諷ふやらんやら 目出たやここぞ 日本一の街 貞柳」と記されています。


浪華の賑ひ三編、表紙と扉
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 三編のあとがきには、次のような記載があります。

〇これも前々の篇にひとしく、一巻に順路を書き縮(つづ)むるといへども、なほ道の程近からず。されば新町の廓より四ツ橋・あみだ池および九条瑞見山を歴て、天保山にいたり、帰路にざこば・西横堀辺を遊覧して可なり。またの日、中の島より安治川・野田の玉川・浦江・三番(さんば)・北野を歴て、堂島・船場・島の内等にとどまる。もっとも、市中遊歴は順覧の外たるべし。また、天保山・木津川口等は舟行の催しよし。芝居見物・廓の遊宴は幾日も重ねたまひて寛楽有るべし。したがって、書物御用の程を多少に限らず偏(ひとへ)に希ひ奉り候と書肆の銘々謹しんで言(まお)す。


 全三編を通してみると、各編を2日ずつ、全体で6日で大坂の賑わいのある地(名所)を巡ることができるガイドブックとなっています。観光ガイドマップの「浪華名所獨案内」も、赤色と藍色と茶色の三色でモデルルートを図示しています。赤色は北方面、藍色は東方面、茶色は南方面となっています。
 地図には線が引かれているだけで、巡る順番は示されていませんが、「浪花の賑ひ」では三編、「浪華名所獨案内」では三色と、いずれも三でまとめられている点は、興味深く注目すべきと思います。

 「浪華名所獨案内」の三色のルートは、こちらの図版の方が線が見やすいと思いますので、ご紹介しておきます。暁鐘成図のもので、ラムゼイコレクション所蔵の版です。

浪華名所獨案内(ラムゼイコレクション)

「浪花の賑ひ」の各編のお勧めルートは、あとがきによると以下の通りです。
1-➀ 高麗橋より始め天満・川崎および桜の宮・網島・御城の辺りに至る
1-➁ 玉造の辺りよりして真田山・味原池・産湯・梅やしき及び生玉・高津の辺りまで
2-➀ 道頓堀をはじめ、寺町・新清水・一心寺を歴て四天王寺にいたる
2-➁ 安部野街道を住吉に詣で、木津川の千本松にいたり、木津・難波を遊歴し、今宮に廻り、しかうして市中に帰宿す
3-➀ 新町の廓より四ツ橋・あみだ池および九条瑞見山を歴て、天保山にいたり、帰路にざこば・西横堀辺を遊覧す
3-➁ 中の島より安治川・野田の玉川・浦江・三番(さんば)・北野を歴て、堂島・船場・島の内等にとどまる


地図と見比べると、それぞれのルートは概ね
1-➀ 赤の東半分
1-➁ 藍の北半分
2-➀ 藍の南半分
2-➁ 茶の南半分
3-➀ 茶の北半分
3-➁ 赤の西半分
に対応しているものと考えられます。
ガイドマップを見ながら、案内書の導きで観光地を巡るという「まち遊び」が200年前から行われていたと思うと、なかなかのものだと思います。
 しかも、三編のあとがきの最後に、「また、天保山・木津川口等は舟行の催しよし。芝居見物・廓の遊宴は幾日も重ねたまひて寛楽有るべし。したがって、書物御用の程を多少に限らず偏(ひとへ)に希ひ奉り候と書肆の銘々謹しんで言(まお)す。」と、しっかり宣伝をしているあたりも、面白いと思います。


〇大阪くらしの今昔館からのお知らせです。

 令和2年6月3日(水)から開館しています


 大阪市立住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」では、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2月29日(土)より臨時休館を継続してまいりました。去る5月14日(木)に公表された大阪府緊急事態措置において、府が定める標準的対策を遵守することを条件に、施設の休止要請が解除されたことを受け、大阪市と協議を重ねた結果、6月3日(水)より再開の運びとなりました。ご来館を心待ちにしておられた皆さまには、長期の休館により多大なご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます。

 再開にあたっては、感染症拡大防止の観点から、いわゆる「3密」状態の防止やアルコール消毒の実施など十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。 なお、詳しくは今昔館のホームページ等でご案内させていただきますので、ご来館の際には必ずご確認くださいますようお願い申し上げます。こちらから、ご覧いただけます。


〇特別展「和紙の建築模型 建築起こし絵図―茶室と社寺と即位図と」開催中です

 令和2年6月3日(水)~7月12日(日)

 建築の魅力は空間デザインにあります。建築家は、スケッチやCG、あるいは模型などを制作して、建築のプレゼンをします。江戸時代の大工棟梁は、和紙で作った起こし絵図を組み立てて、建築空間の魅力を伝えました。建築起こし絵図は、平面図の上に立面図や内部の展開図を描いた和紙を張り合わせたもので、ふだんは折り畳んでおき、見るときには壁面を起こして模型のように組み立てました。いわば、和紙の建築模型です。重要文化財「大工頭中井家関係資料」には建築起こし絵図があります。その大半は茶室や数寄屋建築ですが、社寺建築や京都御所の儀式(即位図)についての起こし絵図も少数ながら含まれています。

 本展では、和紙で作った建築起こし絵図を一堂に展観し、平面図や立面図では分からない建築空間の魅力を楽しんでいただきます。併せて、茶室「蓑庵」(大徳寺玉林院・重要文化財)の原寸模型を展示し、実物大の建築空間も体験していただきます。

入館料:特別展のみ300円、常設展+特別展 一般800円(団体700円)、高・大生500円(団体400円)、団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書提示)

【主な展示物】
茶室起こし絵図(中井家約20点+田中家20点)
客殿・書院起こし絵図(約6点)
大徳寺大仙院庭園渡廊起こし絵図
吉田神社大元宮起こし絵図
透廊起こし絵図
中門起こし絵図
即位図起こし絵図
茶室蓑庵実物大模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)
※なお、重要文化財「大工頭中井家関係資料」は中井正知氏・中井正純氏所蔵



〇大阪くらしの今昔館「全編」
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。今回は全4編を通しで見る「全編」をご紹介します。約14分の動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0


 全4編の目次はこちらからどうぞ。こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4


〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse


0 件のコメント:

コメントを投稿