2020年6月2日火曜日

今週の今昔館(218) 解船町 20200602

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(49)

 今回は「浪華の賑ひ」の「解船町」をご紹介します。

■解船町
 この地は阿波座堀の南側にして瀬戸物町の南にあり。河海の古船を解きほどきて、その板柱等を商ふ家軒をならぶ。こは他邦には少き活業(すぎはひ)なり。さる程に川岸には数多(あまた)の古板を立てつらね、あたかも嶮峴(けんけん)の高峯山嶽に髣髴(ほうふつ)たり。
 わけて雪の朝には唐画の山水のごとき勝景なれば、詩歌・連俳の風流士(みやびを)、好事(こうず)の畸人(きじん)・画師なんどここに競ひて眺望を賞す。
 地に染まるいかりの錆や霜はしら 鼎左

浪華の賑ひ「解船町」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 「浪花百景」にも、「解舟町」があります。

■解舟町(国員画)
 阿波大名蜂須賀氏の大坂屋敷を中心に阿波商人が集まった阿波座。
 現在の西本町を東西に貫いて流れていた阿波堀川の南岸にあった奈良屋町は、その東部に古船を解体する業者が集まり、解舟町とも呼ばれました。あわせて古材を売買したり、それを風呂桶など木製品に加工する店もできて、船運にて興隆した大坂らしい再生業が生まれました。

 すぐ南の立売堀には材木市も立ちました。堀端に古板を立て連ねた様子は切り立った山岳を連想させ、雪の積もった朝などはあたかも山水画のようで風趣を誘ったといわれます。 
 阿波堀川(阿波座堀ともいう)は昭和31年に埋め立てられ、今は往時を偲ぶよすがもありません。

浪花百景「解舟町」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保年間発行の浪華名所獨案内を見ると、西横堀から西に分かれる「アハザボリ(阿波座堀)」の南岸に「トキ舟丁」があり、「解舟ヤ多シ」と書かれています。また、「アハザボリ」から北に分かれる「海部堀」が描かれ、「ホシカヤ多シ」の文字があります。海部堀が直角に曲がるあたりが永代濱です。この地図は、上が東になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 文化3年(1806)発行の増修改正摂州大阪地図を見ると、堀川の形や橋の位置・名前が正確に描かれています。西横堀から西に分岐する京町堀と阿波座堀が描かれ、その2つの堀をつなぐ形で海部堀があります。海部堀が直角に曲がるところに永代橋が架かり、東岸に「永代濱」の文字があります。阿波座堀が西横堀から分かれるところの南岸に「奈良屋町」の文字があります。このあたりが解舟屋が集まり解舟町とも呼ばれていました。図中の●は大坂三郷の北組の印です。阿波座堀よりも北側は北組に属していたことが分かります。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を拡大して見てみましょう。海部堀川が直角に曲がるあたりに「永代濱」の文字があり、堀の北側には「▲海部堀丁」の文字があります。こちらの地図では町名の上に印が書かれ、北組は▲で、南組は△で表示されています。
 西横堀から阿波座堀が分かれるところの南岸に「▲奈良ヤ丁」とあります。2筋南の通りには、同じ通りに「△神田丁」「△伊達丁」「▲箱屋丁」「▲豊島丁」とあり、この通りが北組と南組の境目になっていたことがわかります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、本町通と四ツ橋筋に市電が通り、交差点に「信濃橋」停留所があります。本町通が西横堀を跨ぐところに架かる橋が信濃橋です。阿波座堀の南の通りには「アワボリドーリ一丁メ」の文字があり、奈良屋町の地名は消えています。
 一方、「太郎助橋」停留所の北には「永代濱」の文字があり、堀からの荷揚げがしやすいように「雁木」があった様子も描かれています。ここでも、東西に走る市電の停留所は橋の名前になっています。電車の絵が描かれている所にプラットホームがありました。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、永代濱の文字は残っています。解舟町のあたりは「阿波通一丁目」となっています。「社町」「戸ヤ町」など赤い文字で通称が掲載されている町もありますが、「解舟町」の字はありません。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、南北の四ツ橋筋に市電が通っています。阿波堀川の南の通りには「阿波堀通」の文字があります。すでに地名が変わっていたようです。京町堀川と阿波堀川に挟まれた地域は「靭(うつぼ)」と呼ばれていました。
 右上の昭和7年では、南北のあみだ池筋と東西の本町通にも市電が通っており、「しなのばし」停留所の文字があります。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、あたり一帯が戦災を受けたことが分かります。この時点では多くの堀と、市電東西線、南北線ともに残っています。京町堀川の南に「飛行場」の文字があります。昭和27年までGHQによって利用されていました。
 右下の昭和42年を見ると、すべての堀が埋め立てられ、市電は、あみだ池筋と土佐堀通に残っています。新たに都市計画道路として、なにわ筋と中央大通(四ツ橋筋より西側)が整備されています。飛行場のあったところが靭公園になっています。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 解船町あたりの現況を写真で見てみましょう。といっても、西横堀、阿波座堀が埋め立てられ、当時の面影はありません。

現在の信濃橋
西横堀は埋め立てられ上空を阪神高速道路が通っています
信濃橋の親柱と顕彰板
信濃橋の顕彰板
信濃橋交差点の北西角
信濃橋洋画研究所跡の碑
信濃橋交差点の南西角
本町通の一筋南の通り
この辺りがかつての解船町があった場所

 今回は、「浪華の賑ひ」の「解船町」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。戦災によって地域一帯が焼失したことと、昭和30年代に阿波座堀などの堀川が埋め立てられたことによって、地域の景観はすっかり変わっています。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、「堂島」や「中之島」を確かめてください。


< 〇大阪くらしの今昔館からのお知らせです。

 令和2年6月3日(水)から開館します


 大阪市立住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」では、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2月29日(土)より臨時休館を継続してまいりました。去る5月14日(木)に公表された大阪府緊急事態措置において、府が定める標準的対策を遵守することを条件に、施設の休止要請が解除されたことを受け、大阪市と協議を重ねた結果、明日6月3日(水)より再開させていただく運びとなりました。ご来館を心待ちにしておられた皆さまには、長期の休館により多大なご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます。

 再開にあたっては、感染症拡大防止の観点から、いわゆる「3密」状態の防止やアルコール消毒の実施など十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。 なお、詳しくは今昔館のホームページ等でご案内させていただきますので、ご来館の際には必ずご確認くださいますようお願い申し上げます。


〇特別展「和紙の建築模型 建築起こし絵図―茶室と社寺と即位図と」が始まります

 令和2年6月3日(水)~7月12日(日)

 建築の魅力は空間デザインにあります。建築家は、スケッチやCG、あるいは模型などを制作して、建築のプレゼンをします。江戸時代の大工棟梁は、和紙で作った起こし絵図を組み立てて、建築空間の魅力を伝えました。建築起こし絵図は、平面図の上に立面図や内部の展開図を描いた和紙を張り合わせたもので、ふだんは折り畳んでおき、見るときには壁面を起こして模型のように組み立てました。いわば、和紙の建築模型です。重要文化財「大工頭中井家関係資料」には建築起こし絵図があります。その大半は茶室や数寄屋建築ですが、社寺建築や京都御所の儀式(即位図)についての起こし絵図も少数ながら含まれています。

 本展では、和紙で作った建築起こし絵図を一堂に展観し、平面図や立面図では分からない建築空間の魅力を楽しんでいただきます。併せて、茶室「蓑庵」(大徳寺玉林院・重要文化財)の原寸模型を展示し、実物大の建築空間も体験していただきます。

入館料:特別展のみ300円、常設展+特別展 一般800円(団体700円)、高・大生500円(団体400円)、団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書提示)

【主な展示物】
茶室起こし絵図(中井家約20点+田中家20点)
客殿・書院起こし絵図(約6点)
大徳寺大仙院庭園渡廊起こし絵図
吉田神社大元宮起こし絵図
透廊起こし絵図
中門起こし絵図
即位図起こし絵図
茶室蓑庵実物大模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)
※なお、重要文化財「大工頭中井家関係資料」は中井正知氏・中井正純氏所蔵



span style="font-family: inherit; font-size: large;"> 〇大阪くらしの今昔館「裏長屋のくらし編」
 館の見どころを動画でご紹介しています。今回は「裏長屋のくらし編」です。
https://www.youtube.com/watch?v=I3xqDTOl1to


 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4


〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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