2018年5月22日火曜日

今週の今昔館(112) 両本願寺 20180522

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(21)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の21回目は、両本願寺をご紹介します。北御堂と南御堂が一枚に描かれています。

■両本願寺(国員画)
 近世大坂の都市形成の端緒は、現在の大阪城付近に蓮如が造立した大坂御坊(石山御坊・大坂本願寺)にあります。
 しかし大坂に着目した織田信長との10年に及ぶ戦い(石山合戦)により天正8年(1580)、大坂を離れました。以降京都に寺地を与えられ、本願寺派(西本願寺)と大谷派(東本願寺)とに分かれ現在に至っています。
 その後豊臣秀吉の厚遇を受け大坂に復帰、慶長期(1596~1615)に難波別院(南御堂)と津村別院(北御堂)を教化拠点として建立しました。共に壮大な堂舎を誇り、市中の建物の中でも群を抜いていました。

 錦絵の手前が西本願寺北御堂、左手が東本願寺南御堂、ともに幅3間の道に面して、東を正面にして建っていました。北御堂の石段には、子ども連れ、お年寄り、町人、武士など様々な人々が描かれ、観光客を引き連れる案内人の姿もあります。
 両御堂は法話や講話が年中催され、公的な会合にも使われるなど人々の交流の場となりました。人々に「御堂さん」と呼び親しまれ、両御堂が並立する通りは、御堂筋と呼ばれました。
 昭和の拡幅後の広路を「御堂筋」と呼ぶようになった名称の由来にもなっています。


浪花百景「両本願寺」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 前回ご紹介した「永代濱」にも、背景に大きな屋根が描かれています。海部堀が直角に曲がっている所を西からとらえた風景ですので、大屋根は真西から見た北御堂です。

浪花百景「永代濱」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「四ツ橋」の背景にも、大屋根が二つ描かれています。この大屋根が描かれることによって、この錦絵は南西から北東を見た図であることが明らかとなります。手前が南御堂、左奥が北御堂で、4つの橋も特定されることになります。

浪花百景「四ツ橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「高津」の遠景にも、鳥居と蔵の間に大屋根が二つあります。左側の大きく描かれた屋根が南御堂、右側の蔵の近くの大屋根が北御堂です。

浪花百景「高津」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 このように南北両御堂は、他の錦絵の中にも大屋根が描かれ、当時の大坂市中で圧倒的な存在感があり、ランドマークにもなっていたことがわかります。さらには、錦絵に大屋根が描かれることによって地理関係を理解するヒントにもなっています。

 次に、古地図で両本願寺のあたりを見てみましょう。一枚目の天保年間発行の浪華名所獨案内は、東が上に描かれています。西横堀の東側(上)に2つの御堂が描かれ、西御堂と東御堂の文字が記されています。方角では北御堂と南御堂ですが、当時は西本願寺北御堂を「西御堂」、東本願寺南御堂を「東御堂」とも呼んでいたことが分かります。どちらも赤色の線で結ばれていて、観光名所となっていました。

 北御堂と南御堂、どちらが本願寺派、大谷派だったかな?
これを間違えることなく記憶する方法があります。

 京都の西本願寺と東本願寺は、御所を北に見て左が西本願寺、右が東本願寺です。もちろん方角と合っています。
 一方、大坂では、当時の古地図は東を上に描かれることが多いですが、大坂城を東(上)に見て、左が西御堂、右が東御堂となっています。
 「両本願寺と御所、両御堂と大坂城の位置関係が同じである」。この三角関係を覚えておくと、北御堂が西本願寺津村別院(本願寺派)、南御堂が東本願寺難波別院(大谷派)であることを間違えることはありません。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 文化3年(1806)発行の増修改正摂州大阪地図を見ると、浪華名所獨案内と比べると堀川の形や橋の位置・名前が正確に描かれています。こちらは北を上にしています。
 西本願寺の南の通りは本町通で、通りの両側が本町です。地図には▲の印がありますが、大坂三郷の南組を表しています。通りの北側は、1つの街区に●と▲が縦に並んでいます。これは、背割りの太閤下水が北組と南組の境になっているためで、これより北側は●印になり、北組となります。
 また、この古地図では、東本願寺の敷地が西本願寺よりも一回り大きく描かれています。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。北御堂には「本願寺御門跡」、南御堂には「東本願寺御門跡」の文字があります。こちらの地図では通りに書かれた町名、丁目の上に▲や△の印が書かれ、北組は▲、南組は△で表示されています。本町は△で南組、一筋北の安土町は▲で北組となっています。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大阪市パノラマ地図では、本町通と四ツ橋筋が拡幅され、市電が通っています。北御堂の南東角には「相愛女学校」があり、その傍に「本町四」の停留所があります。電車の絵が描かれている所はプラットホームがあったところです。
 南御堂の敷地内には「大谷女学校」が描かれ、西側には「座摩(いかすり)神社」があります。
 パノラマ地図は大正13年発行の地図ですから、もちろん御堂筋は拡幅前の様子が描かれています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、大屋根の両御堂の絵があり、観光地を示す丸囲みのなかに「北御堂」「南御堂」の文字があります。御堂筋が拡幅され、地下鉄も通っています。御堂筋にはバスも走っていたようです。本町通、堺筋、四ツ橋筋、あみだ池筋に市電が走り、地下鉄と合わせてネットワークとなっています。地下鉄本町駅は、市電の「本町四」停留所の位置にありました。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、南北の四ツ橋筋に市電が通っています。両御堂の表示は西本願寺と東本願寺となっています。
 右上の昭和7年では、東西の本町通と南北の堺筋にも市電が通っています。両御堂の表示は、北御堂と南御堂となっています。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、両御堂ともに被害を受けて焼失しています。両御堂よりも西側の方が被害が大きかったことが分かります。この時点では、市電東西線、南北線ともに残っています。
 右下の平成8年を見ると、市電がすべて廃止され、本町通の2筋南に中央大通が完成し東西方向の新たな幹線となっています。中央大通りは南御堂のすぐ北側を通っています。地下鉄中央線はかつての幹線の本町通ではなく新しくできた中央大通の下を走っています。西横堀川は埋め立てられて、上を阪神高速道路が通っています。

明治42年~平成8年の地形図(今昔マップ3より)

 下の図は、地下鉄中央線本町駅のホームに掲示されている構内案内図です。地下鉄中央線(緑のC)は本町通ではなく中央大通の下を走っているため、御堂筋線(赤のM)の本町駅とは離れています。乗り換えが不便なのは両線の建設の歴史が物語っています。
 四つ橋線(青のY)の本町駅は、本町通と中央大通の間に作られました。開業時は「信濃橋」駅でしたが、中央線が完成した際に本町駅とつながり、駅名も本町と改称されています。
 北御堂は2番出口、南御堂は13番出口が最寄りとなります。両御堂は御堂筋と中央大通が交差する大阪の臍ともいえる位置に建っています。

地下鉄中央線本町駅の構内案内図

 今回は、「浪花百景」の両本願寺をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。両御堂の前の筋が44mに拡幅された後も、市民に親しまれた「御堂筋」の名前で呼ばれていることは、喜ばしいことと思います。
 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。


〇大阪くらしの今昔館は「重文民家をつなぐ!-それは文化とともに建物を次世代に伝えること-」を共催します

 民家を愛する方、民家をもっと知りたい方 必見です!
重文民家は建物の魅力だけではありません。とても大切な伝統文化をつないでいるのです。

 特定非営利活動法人「全国重文民家の集い」設立40周年記念パネルディスカッション

 国指定重要文化財民家(重文民家)の半数以上は、代々個人の住宅です。住み続けることで重文民家の貴重な文化を守っています。このパネルディスカッションでは、重文民家が大切な伝統文化をつないでいることを所有者自らが語ります。重文民家を伝統文化とともに次世代につなぐにはどうすればよいかを、英国の事例に学びながら考えます。

◆日時 2018年5月27日(日)
    13:30~16:30(受け付けは13:10から)

◆会場 大阪市立住まい情報センタ- 3階 ホ-ル

◆参加費無料(定員150名 先着順)

◆プログラム
1 所有者が語る重文民家をつなぐ意味
・天皇即位の儀式と三木家住宅ー大嘗祭の麻布(麁服(あらたえ))ー 三木 信夫(徳島県 三木家住宅)
・世界文化遺産の地・宮島で厳島文化と上卿屋敷(林家住宅)を伝える 出先 洋一(広島県 林家住宅)
・高林家住宅に伝わる百舌鳥精進と年中行事―家族で受け継ぐ400年-  高林 永統・高林 宗弘(大阪府 高林家住宅)

2 歴史住宅を次世代につなぐための支援~英国の事例から~  (通訳あり)
・次世代につなぐ-英国では歴史住宅をどのように次世代に継承しているのか
  Ben Cowell (イギリス Hisitoric Houses 代表)

3 ディスカッション -重文民家を次世代につなぐために (通訳あり)

◆主催:特定非営利活動法人「全国重文民家の集い」
    大阪教育大学居住環境学研究室
    大阪くらしの今昔館
    大阪市立住まい情報センタ-




〇企画展「~生活文化の粋 三井別家中川コレクション~くらしの美を探る 四季のしつらいともてなしの道具」開催中です。5月27日(日)までです。

 本展で初公開となる「三井別家中川コレクション」は、江戸時代の豪商三井家の別家中川九兵衛(なかがわくへえ)家に伝来する書画、茶道具、食器類などのコレクションです。
 三井家は、江戸、京都、大坂の三都に呉服店を構え、両替商も営んでいました。幕末の大坂の名所を描いた『浪花百景』には、高麗橋2丁目にあった大坂本店の繫栄ぶりが描かれています。

 ところで、京都と大坂では風土や文化が異なるという指摘が古くからあります。一方で、京・大坂を一体にした上方文化という歴史用語もあります。2つの都市は、淀川という大動脈によって密接に結ばれていて、共通する生活文化が醸成されたことも事実です。例えば、船場言葉は京言葉と似ていますし、町家や町並み、年中行事など、両都市に共通する生活文化は数多く見いだすことができます。また、大坂の豪商・加島屋が京都出水の三井家から花嫁を迎えたように、京都と大阪は人や文化の交流を深めながら共に発展してきました

 中川家は、享保期頃(1716~1736)より代々京都西陣に近い千両が辻で本家と同じ呉服業を営んでいました。明治初頭に廃業しますが、現在の当主で10代目を数える旧家です。
 歴代の当主たちは家業に勤しむかたわら、歌人や茶人、絵師や陶工と親しく交流しました。また、家業だけでなく年中行事や通過儀礼といった生活面においても、本家や他の別家との交際も重要だったと推察されます。
 このような、富裕な商家ならではのくらしを営むなかで、来客をもてなす膳碗や酒器、食器類、四季折々に床の間を飾る掛軸や花器、そのほか調度品や装飾品などが蓄積されました。また、8代目当主(明治14年~大正10年/1881~1921)は茶の湯の愛好者で、茶道具類の収集にも熱心だったといいます。


 本展は“四季のしつらい”と“もてなし”をテーマに、「三井別家中川コレクション」から、端午の節句飾り、季節を演出する掛軸や花器、また、茶道具をはじめ陶器、漆器、ガラス器などの道具類、100点余りを展示します。上方の富裕な商家に育まれたくらしの美を感じていただければ幸いです。

会期 平成30年4月21日(土)~平成30年5月27日(日)
開催期間中の休館日 毎週火曜日
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)


唐獅子牡丹図大鉢

中川家に伝来の甲冑



〇今週のイベント・ワークショップ

5月23日(水)~26日(土)、28日(月)、30日(水)~6月2日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

5月27日(日)、6月3日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

5月26日(土)
ワークショップ 『張り子のお面を作ろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費300円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

5月27日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00

6月2日(土)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町で、落語をきいてみませんか
出演・演目:桂出丸、他
14時~15時

6月3日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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初めての方はこちらからどうぞ。
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