2018年5月8日火曜日

今週の今昔館(110) 新町店つき 20180508

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(19)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の19回目、今回は新町の2枚をご紹介します。

■新町店つき(国員画)
 新町は京都島原、江戸吉原とともに近世三大遊里の一つで、大坂において唯一江戸幕府公認の遊廓があった所で、17世紀中頃明暦頃(1655頃)にそれまで市中に散在していた遊所を集めて成立しました。四周を溝で囲んだ売春地帯でしたが、中では男女間の様々なドラマが生まれ、井原西鶴「好色一代男」や近松門左衛門「夕霧名残の正月」をはじめ数多くの文芸作品で取り上げられました。


 「見世付(みせつき)」とは遊女屋の表に面した格子の部屋をさし、客は格子越しに好みの女性を品定めしました。
 最上級の太夫は教養・諸芸に通じた遊女で、客にも相応の格が求められました。夕霧太夫は諸国に知れ渡る新町の名妓でした。ここで格式高く豪遊することに皆が憧れを持ちました。


 この地は明治5年(1872)の遊女解放令以降市街地化し、現在は昔の面影をほとんどとどめません。

浪花百景「新町店つき」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

■新町廓中九軒夜桜(芳瀧画)
 江戸時代大坂で唯一の公認遊廓のあった新町のうち、九軒町は玉造の九軒茶屋を移してきたことに因みます。西横堀川に架けられた新町橋を渡り、周囲を竹垣などで仕切られた新町の大門をくぐると、位の高い遊女を呼んで遊ぶ揚屋が並ぶ九軒町。文政2年(1819)3月新町振興策の一環として堤に桜が植えられたのが始まりで、ことに夜桜が有名でした。桜で飾り付けた最上位の遊女が桜並木のもとを練り歩く太夫道中をめあてに多数の見物客が詰めかけました。


浪花百景「新町廓中九軒夜桜」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 現在新町北公園に桜並木が再現されており、北西角には「新町九軒桜堤の跡」の碑と、当時からあった加賀千代女の句碑「だまされて 来て誠なり はつ桜」も残されています。



 天保年間発行の浪華名所獨案内を見ると、立売堀、西横堀、長堀に囲まれたところに「新町廓 九ケン通リスジ」が描かれています。廓の西には「スナバ」と「ヲグラヤ」があり、さらに西には、「鰹座」と「クワンヲン」があります。新町廓を通り抜け、観音を見て、長堀に沿って四ツ橋に出る赤い線が引かれ、観光モデルルートとなっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 新町南公園には、「ここに砂場ありき」の石碑があります。この辺りは、大阪城築城の際に砂や砂利などの資材が置かれた場所だったので、通称『砂場』と呼ばれていました。「二千年袖鑑(そでかがみ)」によると、秀吉が築城に着手した天正11(1583)年の翌年、そばを扱う店が創業したと記されており、営業形態を整えたそば店としては大阪の「いづみや」「津の国屋」が国内で一番古いといわれます。やがて店名をいわなくても「砂場」といえばそば店を指すようになり、店名も「砂場」に改められ、のちに「砂場」は東京に進出し、「藪」「更科」とともに江戸の三大そばの一つになったといわれます。



 文化3年(1806)発行の増修改正摂州大阪地図を見ると、西長堀に架かる新町橋を渡ると正面に大門があり、溝が廻らされた遊郭が描かれています。遊郭の左上あたりに「九ケン丁」の文字があります。新町は大半が▲印の南組ですが、遊郭内には一部●印の北組が見られます。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、溝は描かれていませんが、遊郭の部分の町割りが他と違っている様子が分かります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、西横堀の西を通る四ツ橋筋と長堀の北の通り(末吉橋通)に市電が走り、新町橋の傍には「新町一」停留所があります。遊郭が廃止され市街地化した後が描かれています。「よ」のマークは寄席です。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、四ツ橋筋、あみだ池筋、末吉橋通に市電が走り、四ツ橋交差点の北東角に「電気科学館」があり、新町には「新町演舞場」の文字が見えます。その上には「九軒」の文字があります。その左側を見ると「わらぢや」の文字が見えます。この地図を制作した「和楽路屋」の本社があったところです。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、東西の長堀北通と南北の四ツ橋筋に市電が通っています。
 右上の昭和7年では、あみだ池筋にも市電が通っています。それ以外の道路は、かつてのままの道幅で残っています。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、あたり一帯が戦災を受けたことが分かります。この時点では長堀、市電東西線、南北線ともに市電が残っています。
 右下の昭和53年を見ると、長堀は埋め立てられ、中央分離帯のある幅の広い長堀通となっています。市電南北線は廃止され、新たに都市計画道路として、なにわ筋と新なにわ筋が通って幹線となっています。区画整理によって街区の整理がされ、かつての遊郭の痕跡は見えなくなっています。

明治42年~昭和53年の地形図(今昔マップ3より)

 今回は、「浪花百景」の新町をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。昭和戦前までは、遊郭の跡に新町演舞場があり、かつての面影が多少は残っていたかもしれませんが、戦災によってあたり一帯が焼失し、戦災復興の区画整理がなされたことによって、町並みは一新しています。

 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。



〇大阪くらしの今昔館は「重文民家をつなぐ!-それは文化とともに建物を次世代に伝えること-」を共催します

 民家を愛する方、民家をもっと知りたい方 必見です!
重文民家は建物の魅力だけではありません。とても大切な伝統文化をつないでいるのです。

 特定非営利活動法人「全国重文民家の集い」設立40周年記念パネルディスカッション

 国指定重要文化財民家(重文民家)の半数以上は、代々個人の住宅です。住み続けることで重文民家の貴重な文化を守っています。このパネルディスカッションでは、重文民家が大切な伝統文化をつないでいることを所有者自らが語ります。重文民家を伝統文化とともに次世代につなぐにはどうすればよいかを、英国の事例に学びながら考えます。

◆日時 2018年5月27日(日)
    13:30~16:30(受け付けは13:10から)

◆会場 大阪市立住まい情報センタ- 3階 ホ-ル

◆参加費無料(定員150名 先着順)

◆プログラム
1 所有者が語る重文民家をつなぐ意味
・天皇即位の儀式と三木家住宅ー大嘗祭の麻布(麁服(あらたえ))ー 三木 信夫(徳島県 三木家住宅)
・世界文化遺産の地・宮島で厳島文化と上卿屋敷(林家住宅)を伝える 出先 洋一(広島県 林家住宅)
・高林家住宅に伝わる百舌鳥精進と年中行事―家族で受け継ぐ400年-  高林 永統・高林 宗弘(大阪府 高林家住宅)

2 歴史住宅を次世代につなぐための支援~英国の事例から~  (通訳あり)
・次世代につなぐ-英国では歴史住宅をどのように次世代に継承しているのか
  Ben Cowell (イギリス Hisitoric Houses 代表)

3 ディスカッション -重文民家を次世代につなぐために (通訳あり)

◆主催:特定非営利活動法人「全国重文民家の集い」
    大阪教育大学居住環境学研究室
    大阪くらしの今昔館
    大阪市立住まい情報センタ-




〇企画展「~生活文化の粋 三井別家中川コレクション~くらしの美を探る 四季のしつらいともてなしの道具」開催中です。5月27日(日)までです。

 本展で初公開となる「三井別家中川コレクション」は、江戸時代の豪商三井家の別家中川九兵衛(なかがわくへえ)家に伝来する書画、茶道具、食器類などのコレクションです。
 三井家は、江戸、京都、大坂の三都に呉服店を構え、両替商も営んでいました。幕末の大坂の名所を描いた『浪花百景』には、高麗橋2丁目にあった大坂本店の繫栄ぶりが描かれています。

 ところで、京都と大坂では風土や文化が異なるという指摘が古くからあります。一方で、京・大坂を一体にした上方文化という歴史用語もあります。2つの都市は、淀川という大動脈によって密接に結ばれていて、共通する生活文化が醸成されたことも事実です。例えば、船場言葉は京言葉と似ていますし、町家や町並み、年中行事など、両都市に共通する生活文化は数多く見いだすことができます。また、大坂の豪商・加島屋が京都出水の三井家から花嫁を迎えたように、京都と大阪は人や文化の交流を深めながら共に発展してきました

 中川家は、享保期頃(1716~1736)より代々京都西陣に近い千両が辻で本家と同じ呉服業を営んでいました。明治初頭に廃業しますが、現在の当主で10代目を数える旧家です。
 歴代の当主たちは家業に勤しむかたわら、歌人や茶人、絵師や陶工と親しく交流しました。また、家業だけでなく年中行事や通過儀礼といった生活面においても、本家や他の別家との交際も重要だったと推察されます。
 このような、富裕な商家ならではのくらしを営むなかで、来客をもてなす膳碗や酒器、食器類、四季折々に床の間を飾る掛軸や花器、そのほか調度品や装飾品などが蓄積されました。また、8代目当主(明治14年~大正10年/1881~1921)は茶の湯の愛好者で、茶道具類の収集にも熱心だったといいます。


 本展は“四季のしつらい”と“もてなし”をテーマに、「三井別家中川コレクション」から、端午の節句飾り、季節を演出する掛軸や花器、また、茶道具をはじめ陶器、漆器、ガラス器などの道具類、100点余りを展示します。上方の富裕な商家に育まれたくらしの美を感じていただければ幸いです。

会期 平成30年4月21日(土)~平成30年5月27日(日)
開催期間中の休館日 毎週火曜日
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)


唐獅子牡丹図大鉢

中川家に伝来の甲冑



〇今週のイベント・ワークショップ

5月9日(水)~12日(土)、14日(月)、16日(水)~19日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

5月13日(日)、20日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

5月12日(土)
町家衆イベント ワークショップ『押し花しおりを作ろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します     
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

5月13日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00~16:00

5月20日(日)
町家衆イベント 連鶴(有料)

折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:14:00-15:30

町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付にてお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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