2018年8月7日火曜日

今週の今昔館(123) 天下茶屋ぜさい 20180807

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(29)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の29回目は、「天下茶屋ぜさい」をご紹介します。

■天下茶やぜさい(芳瀧画)
 天下茶屋は豊臣秀吉が住吉詣の際に休憩し、茶の湯を楽しんだ茶屋があったことから名づけられた地名と伝えられます。
 紀州街道に面してその茶屋の隣に、「是斎(ぜさい)」という薬屋がありました。津田宗本という人が寛永年中(1624~44)に開いた店で、シーボルトなどを通じて西洋にも紹介された銘薬で、胃痛・頭痛などに効能がある漢方の「和中散(わちゅうさん)」で評判でした。その次男是斎が近江の国梅木(うめのき)に開いた店の方が繁盛し、是斎と言えば和中散をさすほど有名になったため、本家の天下茶屋店も是斎の看板を掲げるようになったのだといわれます。

 店頭を広く取り、往来する人々に薬湯をふるまって大いに流行ったといわれます。旅人には丁度いい休憩所になったのでしょう。店の脇には人力で回す木製歯車があり、連動する石臼で薬種を挽いていました。
 店の様子を詳しく見せるため、錦絵の上部に店頭を大きく描く構図を採っているため、浪花百景では通常上部にあるタイトルが、左下にレイアウトされています。柱の後ろに「和中散」の文字が隠れています。

浪花百景「天下茶やぜさい」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天下茶屋ぜさいは、大変有名であったため、いろいろな絵が描かれています。俳諧師・秋里籬島(あきさと りとう)が編集を担当し、絵師・竹原春朝斎(たけはら しゅんちょうさい)が絵を担当した摂津国の通俗地誌であり観光案内書でもあった「摂津名所図会」にも「天下茶屋村是斎薬店」があります。本文には「薬店は数十間を闢(ひら)きて、床椅(しょうぎ)数脚をならべ、往来の人を憩はし、薬を湯に立て施す事、四時間断なし」と解説があります。 

摂津名所図会(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 摂津名所図会とそっくりな図柄が、東海道中膝栗毛の挿絵にもあります。十返舎一九の大ヒット作で、主人公、弥次郎兵衛と喜多八をガイド役に、江戸時代の伊勢参りと京・大坂見物を再現したものです。

 二人は、四天王寺を見物後、阿倍野街道を経て住吉街道に出ます。本文の流れとこの挿絵の薬屋は直接関係しませんが、ト書きには、「やがて天下ちや屋むらなる、わちうさん是斎の見せさきにいたりけるに」とあり、「麗な天下茶屋から四方に名の羽をのす鳶のわちう散みせ」の一首が載っています。

 「麗(うららか)な天」(晴天)に「天下茶屋」を、晴天に鳶が輪を描いて飛ぶその「輪」に「和中散見世」をかけた趣向です。「天下茶屋和中散の見世の名は、羽を伸ばして舞う鳶のごとくに、四方にひろがっている」の意です。

東海道中膝栗毛より

 「浪速勝景帖」にも、冬の「ぜさい」の風景が描かれています。店の右奥には木製の歯車が見えています。

浪速勝景帖(大阪くらしの今昔館蔵)


 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、「今宮村」と「住吉」の間に「天下茶ヤ」があります。「スミヨシカイドウ」の文字もあります。茶色の線が引かれ、観光名所となっていたことがわかります。この地図は、東が上になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。今宮村と茶臼山は描かれていますが、天下茶屋は、地図の範囲に入っていません。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、今宮の南に「萩茶屋」の文字が見えますが、その南には住吉神社の挿絵があって、天下茶屋はその下に隠れています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、南海本線に「天下茶屋」駅があり、「天下茶屋駅筋」の文字も見えます。傍に南海車庫もありました。阪堺線には「北天下茶屋」駅があり、駅の北西は「天下茶屋一丁目」南西は「天下茶屋二丁目」の地名があります。聖天坂の南西は「天下茶屋三丁目」になっています。二丁目には「天下茶屋」という大きな赤文字もあり、付近に商店街もあって賑わっていた様子が分かります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、紀州街道に沿って町並みがあり、宿場町となっていたことがわかりますが、西側の高野登山線の周りには農地が拡がっています。東側の聖天山周辺も空地が目立ちます。
 右上の昭和7年では、阪堺電車も通り、市街地化が進んでいます。
 左下の昭和22年では、白い部分が戦災で焼失した地域です。天下茶屋から南、岸の里にかけては戦災の被害が大きかったことが分かります。
 右下の昭和42年を見ると、市街地の復興が進み、全域が市街地となっています。戦災の被害があったところに東西の幹線道路が通っています。現在の松虫通の一部になります。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 今回は、「浪花百景」の「天下茶やぜさい」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。

 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。「東海道中膝栗毛」の挿絵と解説は、新編日本古典文学全集「東海道中膝栗毛」(小学館)を参考にさせていただきました。


〇企画展示室では、大阪市中央公会堂開館100周年記念
 特別展「大大阪モダニズム ― 片岡安の仕事と都市の文化―」を開催中です。


会期:平成30年7月21日(土)~9月2日(日)
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)

会期中の休館日:毎週火曜日

 大正14年(1925)、大阪市は市域拡張によって面積・人口ともに東京市を抜き日本第一の都市となり、当時世界第6位の大都市「大大阪」が誕生しました。御堂筋の建設や公営地下鉄の開通、築港整備などが進み、また大阪市中央公会堂、大阪商科大学(現大阪市立大学)、大阪城天守閣、大阪市立美術館などの教育文化施設が誕生しました。次々と都市計画が実現する中、機能性を重視した「モダニズム建築」が現れ、大衆文化にもアールデコ風の新しいデザインが取り入れられます。

 今年は、大阪市中央公会堂が開館して100年の節目の年になります。そこで、大大阪時代の幕明けを告げるこの名建築の実施設計を手掛け、大阪の都市計画を指導した建築家・都市計画家の片岡 安の仕事を通して、大大阪時代の建築群と都市景観を展望します。また大大阪時代の都市美を描いた絵画を紹介し、大大阪モダニズムとも呼べるこの時代の美術・文化を再評価します。

 本展覧会は、片岡安が初代校長を務めた常翔学園(その前身である関西工學専修學校)の常翔歴史館と、大阪の建築文化の専門博物館でもある大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)の主催により開催します。

「大阪市公会堂新築設計図 透視図」
(岡田信一郎案)大阪市蔵
小出楢重《市街風景(街景)》個人蔵
川瀬巴水《大阪道頓堀の朝》
大阪市新美術館準備室蔵
「大阪の三越」個人蔵




〇今週のイベント・ワークショップ
 ※本日7日火曜日は、休館日です。


8日(水)~10日(金)、13日(月)、15日(水)~18日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

8月11日(土・祝)、12日(日)、19日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

8月11日(土・祝)、12日(日)
イベント 今昔館で夏祭り ― 楽市町家 ―

町家の店先に町家衆手作りのかわいい商品が並びます
13時~16時

8月12日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00

8月16日(木)
イベント 夏休み まちなみ探偵団

江戸時代の大坂の住まいやくらしのヒミツを極秘調査して、
今昔館を訪れている外国の人に見つけたヒミツを伝えてみよう!
10時30分~16時30分(受付10時15分より)
対象:小学4・5・6年生(安全のため、保護者の送迎をお願いします。)
※当初5,6年生を対象としていましたが、4年生まで対象を広げました。
定員:20名(申し込み多数の場合は抽選)
お申し込みについては「住まい・まちづくり・ネット」をご覧ください。申込期限は8月2日(木)です。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33201
※いただいた個人情報は今回のイベント以外の目的には一切使用いたしません。
※参加者決定後、お申し込み時にご記入いただきましたご住所に、参加証及び詳細をお送りします。
※昼食・飲み物は、各自ご用意ください。

8月18日(土)
町家衆イベント 折り紙(有料)

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00

8月19日(日)
イベント 町家でお茶会

町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか,br> 先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時

町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されていました。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧いただけます。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
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