2018年7月3日火曜日

今週の今昔館(118) 天保山 20180703

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(26)

 「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の26回目は、天保山をご紹介します。目印山とも呼ばれていました。

■天保山(芳雪画)
 天保山は天保2年(1831)から翌年にかけて、安治川河口部に堆積した土砂を取り除くために大規模な浚渫工事が行われた際、土砂が積み上げられてできた山で、高灯籠も備え、出入船の目印となったことから目印山とも呼ばれました。現在では、ウォーターフロント開発のメッカとして親しまれていますが、往時は山上や水辺からの眺めが抜群で、桜が植えられたり、茶店や灯籠、桟敷が設けられたりと、大坂近郊の行楽地として非常な人気を呼びました。幕末、ロシア艦船が沖合に姿を見せると、幕府は天保山を平らにし、砲台を築造して対応しています。錦絵手前に大胆に描かれているのは河口の航路標識「澪標(みおつくし)」で、現在の大阪市章の原形です。

浪花百景「天保山」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代初期までの淀川河口部は洪水がたびたび起こり、上流からの土砂が堆積して舟運にも不便をきたすことが多くありました。このため、貞享元(1684)年に幕府の命により、河村瑞賢が九条島を分断して淀川の流れを直線化し、安治川を開削しました。そのときの土砂が積み上げられて、随見(瑞賢)山(異称、波除山)ができました。また、天保2(1831)年に行われた安治川の浚渫工事「御救大浚」の際にできたのが「天保山」です。天保末期に刊行されたと推定される古地図「大阪安治川口細見」には、安治川河口付近に「ズイケン山」「天保山」が見られます。また、天保山より沖に向かって、現在の大阪市章と同じ形をした「澪標(みおつくし)」が描かれています。

大阪安治川口細見
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保山の風景は当時有数の名所であったため、多くの名所画に描かれています。山と桜、高灯籠、船が大きく描かれている画が多い中、澪標を大きく描いた浪花百景はユニークな構図と言えるでしょう。

諸國名所百景「大坂天保山」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
大阪安治川天保山風景
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
天保山諸國名橋竒覧「摂州阿治川口天保山」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
本朝名所「大坂天保山」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
浪花名所之内「天保山」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の安治川河口付近を見ると、「目印山 天保山トモ云」とあり、山の姿が大きく描かれています。この地図は、東が上になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 文化3年(1806)発行の増修改正摂州大阪地図には、波除山付近の新田開発の様子が池山新田、木屋新田、湊屋新田、石田新田などが詳しく描かれていますが、天保山はありません。天保2年の川浚えでできた山ですので当然です。 

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみると、地図の左端が「波除山」で、天保山は地図の範囲に含まれていません。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、天保山桟橋が描かれ、市電の「天保山桟橋前」停留所があります。測候所の傍に樹木が描かれていますが、天保山そのものの表示はありません。市電は、大桟橋の手前の「築港」停留所から「天保山桟橋前」を経由して、三条通に戻るループになっていたことが分かります。桟橋には大きな船が多く描かれ、大阪港の繁栄がうまく描かれています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「天保山」と「天保山桟橋」が観光名所の表示である赤い丸囲みで描かれています。天保山には「M」の記号と憲兵分隊、陸軍糧秣支廠(りょうまつししょう)の文字があり、このあたりが軍により使用されていたことが分かります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 明治18年発行の陸地測量部地図「天保山」を見ると、干拓によって新田が開発された様子がよくわかります。安治川河口部に星型に埋め立てられた天保山が描かれています。

明治18年陸地測量部地図(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 今昔マップ3を利用して、地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、天保山の西と南に築港が埋め立てられ、中央の三条通を市電が走っています。天保山、天保町の文字が見えます。建物は市電に沿ってわずかに建っています。
 右上の昭和7年では、築港と八幡屋の市街地化が進み港通と安治川沿いの道に市電が走っています。天保山と天保町の文字も見えます。
 左下の昭和30年では、白い部分が戦災で焼失した地域で、築港・八幡屋付近は大きな被害があったことがわかります。
 右下の昭和42年を見ると、市電はすべて廃止され、地下鉄中央線が港通りを走っています。海岸線に沿って貨物線が通り、鉄道運輸が盛んだったことがわかります。戦災復興区画整理によって、街区の整備が行われ、安治川河口部が拡げられ、天保山運河もできています。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 最後に、明治42年地形図と最新の国土地理院地図を比較してみましょう。安治川の川幅が大きく拡げられ、阪神高速道路湾岸線と天保山ジャンクションができています。安治川の北岸にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンがあります。
新田開発から、工場用地に転用され、その跡地がテーマパークになりました。

明治42年地形図と最新の国土地理院地図
(今昔マップ3より)


 今回は、「浪花百景」の天保山をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。


〇企画展「商都慕情 -今昔館の宝箱-」開催中です。7月8日までです。

会期:2018年6月16日(土)~7月8日(日)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:毎週火曜日

 「天下の台所」と称された大阪には諸国の物産が集積し、商人は富み栄え、豊かな暮らしを背景に芸術・文化が開花しました。また、「水の都」とも称された大阪は市中に堀川が発達し、多くの橋がかけられました。三大橋と呼ばれた「天満橋」「天神橋」「難波橋」、町人が維持管理した町橋など多種多様な橋があり、魅力ある都市景観を作り出していました。

 大阪くらしの今昔館が所蔵する美術品の中には、大阪の景観や、年中行事など、人々の暮らしぶりを描いた絵画が残されています。例えば、「浪花下村店繁栄之図」(佐藤保大筆)は幕末期の松屋(現在の大丸)の店構えと賑わいが、「浪花天神橋図」(菅楯彦筆)には天神橋の上で武家の子ども連れと、天神旗を持った行商人の家族などが行き交う様子などが描かれています。さらに花見や月見など季節の行楽、寺社への参拝、年中行事や祭礼など、古きよき大阪の魅力あふれる街の様子や暮らしぶりを掛軸・絵巻・屏風などの絵画作品を通してご覧ください。
詳しくはこちらからどうぞ。
浪花下村店繁栄之図 佐藤 保大
浪花天神橋図 菅 楯彦
「葉月 四ツ橋夕涼」浪花風景十二月より 二代貞信


〇次回の企画展示は、大阪市中央公会堂開館100周年記念  特別展
「大大阪モダニズム ― 片岡安の仕事と都市の文化―」です。


会期:平成30年7月21日(土)~9月2日(日)
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
会期中の休館日:毎週火曜日【7月24日(火・祝)は開館】

 大正14年(1925)、大阪市は市域拡張によって面積・人口ともに東京市を抜き日本第一の都市となり、当時世界第6位の大都市「大大阪」が誕生しました。御堂筋の建設や公営地下鉄の開通、築港整備などが進み、また大阪市中央公会堂、大阪商科大学(現大阪市立大学)、大阪城天守閣、大阪市立美術館などの教育文化施設が誕生しました。次々と都市計画が実現する中、機能性を重視した「モダニズム建築」が現れ、大衆文化にもアールデコ風の新しいデザインが取り入れられます。

 今年は、大阪市中央公会堂が開館して100年の節目の年になります。そこで、大大阪時代の幕明けを告げるこの名建築の実施設計を手掛け、大阪の都市計画を指導した建築家・都市計画家の片岡 安の仕事を通して、大大阪時代の建築群と都市景観を展望します。また大大阪時代の都市美を描いた絵画を紹介し、大大阪モダニズムとも呼べるこの時代の美術・文化を再評価します。

 本展覧会は、片岡安が初代校長を務めた常翔学園(その前身である関西工學専修學校)の常翔歴史館と、大阪の建築文化の専門博物館でもある大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)の主催により開催します。

「大阪市公会堂新築設計図 透視図」
(岡田信一郎案)大阪市蔵
小出楢重《市街風景(街景)》個人蔵
川瀬巴水《大阪道頓堀の朝》
大阪市新美術館準備室蔵
「大阪の三越」個人蔵


〇大正イマジュリィ学会公開シンポジウム 第43回研究会 大阪イマジュリィをもとめてⅢ「ヴィジュアルから切る”大大阪”-アート・博覧会・マスメディアー」

“イマジュリィ”はフランス語でイメージ図像を指し、挿絵・ポスター・絵はがき・広告・漫画・写真など大衆的な図像の総称です。本学会は“イマジュリィ”を対象に、日本の視覚文化上、重要な大正時代を中心とする二十世紀初頭をクロース・アップします。
詳しくはこちらからどうぞ。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33208




〇今週のイベント・ワークショップ

 ※本日(火曜日)は休館日です。


7月4日(水)~7日(土)、9日(月)、11日(水)~14日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

7月8日(日)、15日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

7月8日(日)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸、月亭遊真
14時~15時

町家衆イベント おじゃみ(有料)
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00

7月14日(土)
町家衆イベント ワークショップ『ミニすだれを作ろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
     講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

7月15日(日)
イベント 町家でお茶会

町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より8階受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時

町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

町家衆イベント 連鶴
折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
    14:30~中級者以上向け


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
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